Tag Archives: そののちの世界

猫になりたい──2

ごろごろごろおん

ぼやー

のっそりのそのそ
ふぁああああっ

きっ
しゅたたたたたたっ
さささ

とんっ

ぺし
とすとす

ふにゃああ
しゃっしゃっしゃっ
ちゃっちゃっちゃっ

ぽて

ぐるん

ぐるんぐるん

ごろごろごろおん




お茶の間のアイドル、ネコのミーム。人気はCMに始まり、ミームをあしらったチョコレートは飛ぶように売れ、テレビもネットも可愛いネコで溢れていた。さらにどういうわけか、時を同じくしてハリウッドからはネコが主役の映画が同時に2本も届けられた。世界は、ネコの一大ブームに沸いていたのだ。
降って湧いたネコブームに乗り、俺の会社もついにネコ業界へと乗り出したらしい。街を散歩する犬の姿が眼につかなくなった頃、世界の歯車は、大きく狂い始めたのだった。

ほんとうに世の中には

ほんとうに
世の中には

ヒルやダニのような人間がいた
ヒルやダニに失礼なのだけれど

どうして
そんな人生に耐えられるのか

自分のものではないものを
笑いながら壊し
奪ってゆく

あなたは
心から微笑むことはあるのか

あなたは今
勝ったと思っているのだろう

あなたは今
ちょろかったと笑っているのだろう

あなたを許せない気持ちは
やがて薄れていくだろう

あなたの心の中に溜まり続ける醜い膿は
決して洗い流されることはないのだ

もしもこの先
心から
幸せにしたいと思う誰かが現れたとき
あなたの足下にはその膿が絡みつき
あなたが軽やかに
飛ぶことを許さないだろう

私はあなたをいつか許すけれど
あなたの足下の膿は
溶けることなく薄まることなく
あなたを縛り続けるだろう

あなたがそうやって誰かの血を
耐え難いほど醜い唇で
吸い続ける限り

私ではない誰かが
あなたを許さない限り

数えきれない誰かが
あなたを許さない限り

それでもあなたは
幸せを感じることがあるのだろうか

その人生は
生きるに値するものなのだろうか

欲望

威嚇
虚勢
恫喝

せめて
そんな人生のあり方に
憧れる若い魂のないことを

微笑みのない心に
勝ち負けという価値観に
憧れる若い魂のないことを




世界的な株価の暴落を一つのきっかけに、株式市場で”サタン”と呼ばれた男、貝塚剛は、そのあり余る資産を更に拡大させようとしていた。
貝塚の秘書になって三年目を迎えた牧村は、エスカレートする彼の欲望の引き起こす異常な争いに巻き込まれ、翻弄されていく……。

イメージと現実

道路工事の現場を通りかかった。
パワーショベルがアスファルトの道路を《バリバリと》剥がしていた。
さて、こういった場合、アニメや映画ではどんな効果音が当てられるだろう。
漫画ではさしずめ、
「ガガガガッ」「ゴゴゴゴッ」「ドン」「ズシン」あたりだろうか。映画ではきっと、重量感があって腹に響くような音が鳴るだろうと、想像できるのではないだろうか。

だが、僕が実際耳にした音は、まるで違うものだった。イメージとは異なる軽い音だったのだ。
「ビリビリ」「パリパリ」と、堅焼きせんべいをかじる音のような、もしくは、くたびれた薄い木綿(例えば着古して薄くなったシャツ)を引き裂く音のようなものだった。
え? と思った僕は、立ち止まってそれをしばらく見ていたんだ。こんな光景、生まれて初めて目にしたわけじゃあない。でも、頭の中にあった音のイメージは、実際のそれとは大きく違っていた。

あなたは、こういう話を聞いたことがあるだろうか。

スポーツ中継のバックで流れるサウンドは、その場で録音されたものではない。正確に言えば、その場で録音されたもの《だけ》ではない。優秀なサウンドエンジニアがミキサーブースに付きっきりで、膨大な数のサンプリング音源ライブラリとともにスタンバッているのだ。もちろん、予めピックアップした《それっぽい音素材》満載で。
例えばスタジアムの歓声、スキー選手が雪をバサッとかく音、ダンクシュートのリングがぐわわんと揺れる音……様々な音が、テレビ視聴者を盛り上げるために追加されるのだ。

これは、ゲームの表現力が高まり過ぎてしまったことが発端だという。作り込まれたシーンにおけるサウンドエフェクトの臨場感が、現実を大きく超えてしまったのだ。そりゃあそうだろう、いくら録音技術が優れていても、その場にいる観客よりずっとはっきりと、スポーツのサウンドを《一つ一つクッキリと》聴き取れるなんて、とても不自然なことだ。
そこからスポーツ映画に波及し、スポーツドキュメンタリーに広がった。
視聴者の感性は、フェイクのサウンドをプラスオンされたものでないと、臨場感を味わうことが出来ないほど鈍くなってしまったらしい。
だから生録の音では満足出来ない視聴者には、フェイクのサウンド効果をプラスする必要があるのだと《番組の製作者たちは思い込んで》いる。

これ、英国のラジオ番組で三年ほど前に特集が組まれて、一般に知れ渡ったことだそうで、その番組はかなりの聴取率だったらしい。僕はそれをPodcast配信で聴いたのだけれど、とても面白い番組だった。

こうやって、人は自分自身が心の中に描いたイメージに、簡単に騙されてしまうのだろう。

さて、この感じ、何かに似てはいないだろうか?

例えば《食》。
明らかに不自然な色調、工業製品のように画一化された形状の野菜や果物、肉製品たち。そうしないと売れないからと生産者は言う。
そういう食品を眼にして、美味しそうだと思ってしまうイメージの貧困と、そこに乗る販売者と生産者。消費者の側にも責任の一端はある。
そして、それが当たり前のものになり、
《魚が切り身のまま海を泳いでいる》と思い込む子供たちを生む。
《牛も豚も鶏も、味だけでは区別できない》子供たちを生む。
《野菜の味の個性、クセは失われ、気の利いた“やり過ぎの”調味料に演出された味》イコール美味しい味だと思い込む子供たちを生む……。

僕は表現者として、人間のナマの感覚に鋭敏でいたい。
世の中のフェイクを全て否定する気はないし、全て見破れる自身も毛頭ない。でもね、感覚を研ぎ澄ましていたいものだなぁと、いつも思っているのだ。

そんな感覚の変化と、それによる人間自身の変化を描いたサイファイ作品が、『奇想短編集 そののちの世界8 五感の嘘』だ。

 

あなたの五感は本物なのか!?
あなたの五感は本物なのか!?

 

気になったら、ぜひAmazonでチェックしてみてほしいな。
五つ星レビューもついた『五感の嘘』はこちらから!

 

では、いつかこの記事が、誰かの役に立ちますように!

「作品ページを更新しました」のお知らせ

ようやっと、というか、とうとう、というか、今更という感じがしなくもないのですが、作品サイトに『そののちの世界の』のページが仲間入りしました。
最初の作品である『夜啼く鳥』をリリースしてから6か月以上が経過していますが、何とかWEBページ公開まで来ました。いや〜、ここまで長かった。

少しでも作品を読みたくなるようにと考えて工夫した、今回のポイントはこちら。

・全作品の試し読みをBiB/iで用意。
(もちろん、Amazonさんの試し読みよりもちょっと多め!)

・ランキングのついている作品について、最高位を記載。SF・ホラー・ファンタジーに再分類していただいたお陰で、金冠がつきましたからね〜!
(しかし、売れていない作品もバレてしまう諸刃の剣であった)

・表紙やブックトレイラーの制作中に生まれたCG画像をまとめて掲載。Twitterなどで見そびれてしまった淡波CGファンなあなたのために!(誰もいないぞ……)
→もちろん、CG好きな人がたまたま検索で辿り着けるように、キーワードを散らして。

・今までにいろいろな方からいただいたレビューや感想をまとめて掲載。Amazon上のものは(レビューを書いてくださった方と知り合いではないケースが多いので)タイトルとリンクにしています。

・各作品のページには《概要》のほかに、《気になるシーン》と題して試し読みでは読めない部分の一部を抜粋して載せてみました。試し読みの後が気になる方がいるかもしれませんし!

まだまだ工夫が足りないとは思いますが、まずはここで公開しておくことにしました。やはりSEO的には《生きている》ページが強いわけなので、まとめて更新してそのあと放っておいてしまうスタイルはよろしくないですもんね。
これからもちょくちょく手を入れて行きたいなあと思います。他の既刊本ページも含めて。

さーて、この記事が、いつか誰かの役に立ちますように!

ただいまBiB/iを学び中!

最近BiB/iの作者である松島智(さとる)さんとTwitterでお知り合いになったこともあり、作品ページ上に試し読みePubをBiB/iで埋込もうと学び始めた。
以前からでんでんランディングページではお世話になっていたけど、あれは用意されたとおりにePubを突っ込むだけだったから、BiB/iの神髄に触れてはいなかった。
今回改めて自分で触ってみると、すごく便利! さくさくだし、表示が美しい。

ちなみに、BiB/iのWEBサイトもとっても美しいです。さすが! という感じ。

《学ぶ》といっても使い方はとっても簡単。

1.サイトからBiB/iをダウンロードして解凍
2.自分のサイトにBiB/i用のディレクトリを作る
3.そこにBiBフォルダをアップロード

WEBブラウザでそのディレクトリを開くと、BiB/iのビューアがいきなり立ち上がる。すっげえ!
まだ、それではブラウザ上で自分が持ってるePubを《ドラッグ&ドロップで》見られるだけなので、次へ進む。

4.BiBフォルダ内にあるbookshelfフォルダに、自分のePubを展開したフォルダをアップロード

ここがちょっと難しいかもしれない。ePubを展開したことのない人にとってはびっくりすることなんだけど、実は、ePubファイルってのは《ちょっと特殊な方法でzip圧縮したファイル群》。拡張子のepubをzipに打ち替えると、それだけでzipファイルになる。それを解凍すると、中に格納されたファイル群が現われるのだ。とは言っても、逆は出来ないので油断しないように。素人が構造を真似したフォルダをzip圧縮して、その拡張子をepubに変えてもepub書類には出来ないし、いったん解凍してしまったepubを再びepubに戻すには、《圧縮しないでzip化》しなければならないのだ。コマンドラインを使ったりしてね(そして僕は素人なので、どうやれば出来るかを解説することは出来ない)。

さてこのzipファイル、Macの人は要注意だ。OSデフォルトの圧縮解凍機能ではこのちょっと特殊なzipは解凍できない。ダブルクリックすると、さらに別形式へと圧縮されてしまうのだ。僕の場合はALZipで解凍することが多いけど、以前紹介したEtreZipで《圧縮されたままのファイルをドライブとしてマウントし》、全体を新しいフォルダにコピペしてもいい。ALZipの場合はインストール時に余計なアプリをインストールしようとするので、パンパンOKを押していくと迷惑なソフトがいっぱい入ってしまう可能性がある。ここに注意すればとても便利なソフトなので、これは好みでどうぞ、といったところ。

こうして何らかの方法でePubファイルを展開したフォルダを用意したら、それで準備OK。あとはBiB/iのマニュアル(このページ)に従って作ったディレクトリにアップロードして、そこへのリンクをHTMLに埋込めばいいのだ。

ePubをそのままHTMLに埋め込めるBiB/iの利点は大きい。Amazonさんのサンプルと違い、今自分がいるWebページを離れずにその場で読める。僕自身もそうなんだけど、試し読みのデータをダウンロードするという、たったワン・アクションが、試し読みから遠ざけてしまうと思うのだ。
端末にサンプル本が溜まっていくのも美しくない。かといって、いちいち端末の書棚をメンテするのも面倒だしね。
BiB/iで気軽に立ち読みして、気に入ればストアに行って本編を購入という流れがスマートなんじゃないかなと思う。

作者にとっても大きな利点がある。全体の文章量に対する比率で自動的に試し読みページ数が決まるのでなく、《ここまで読ませたい》という部分で任意に切れるのだから。

最後に、

『奇想短編集 そののちの世界』で一番人気の『段ボール箱の中の人形』(無料!)の試し読みePubをこちらに用意したので、ぜひ覗いてみて欲しいな。

『奇想短編集 そののちの世界6 段ボール箱の中の人形』

 

ええ〜、ここで終わりかい?

と思ったら、スグにポチりたくなるでしょ?
何しろ無料なんだから。さあ、Amazon Kindle Store (もしくは楽天電子書籍ストアでもオッケー)にGo !

この記事が、いつか誰かの役に立ちますように!

(埋込まれた表紙画像のサイズが変なのは、これからの課題です……)
内部埋込みの表紙画像は削除し、タイトル文字としました。

喜んでいる場合ではない!

こんな状況を良しとしているわけにはいかないのだ。やれランクインしたとか、喜んでいても仕方がない。
そりゃ、上位ランクに入れば嬉しいですよ。でも、周囲を見てみればすぐ我に返ることになるのだ。
《SF・ホラー・ファンタジー の 売れ筋ランキング》のうち無料本では、1ページ目、つまり1位〜20位までにいる著者の数は僕を合わせてたった5名。(23:56現在)

こんなに上位に並んではいるが……
こんなに上位に並んではいるが……

 

僕の本が四冊、戸松有葉さんが八冊、赤井五郎さんが四冊、ヘリベマルヲさんが三冊、日野裕太郎さんが一冊だ。この寡占状態が、KDP全体の無料《SF・ホラー・ファンタジー》本のランキングを表わしているとはとても思えない。

次のページ、つまり20位以下に目をやると、なんと、28位までで終わっているのだ。このカテゴリーには無料本が28冊しかないのだ! これが何を意味しているかというと、Amazonさんのカテゴリー分類が全く用をなしていない。ただそれだけのことなのだ。

著書を発行する際にKDPの管理ページで選択するカテゴリーは、SFの中でも多くの細目に分類されている。当然、ホラーやファンタジーは別カテゴリーだし、ファンタジーの中にもいくつもの細目がある。

SFカテゴリーの《一部》
SFカテゴリーの《一部》

 

これは、僕の管理画面で、ある著作のカテゴリー選択を行なった際のキャプチャだ。《選択されたカテゴリー》には、《スリラー>超自然》と《青少年向けフィクション>SF》が並んでいる。でも、本が出版されるとき、これは全て無視される。どこかに使われているのかもしれないが、少なくともエンドユーザー(=読者)の目に触れる形ではそれは現われない。

そして、出版後に自動分類された電子書籍は、多くのものが《文学・評論》という上位カテゴリーに大ざっぱに入れられるのだ。この中は完全に雑多な世界で、純文学から評論からロマンス、戯曲、歴史……、何でも含まれている。これ、カテゴリー分類じゃないよね。

《Kindle本>文学・評論》というのが自動分類の結果だ
《Kindle本>文学・評論》というのが自動分類の結果だ

 

こんな分類で、読者さんが読みたいジャンルの本に辿り着けるとは到底考えられない。だから、自分の本がちゃんとしたカテゴリーに、少なくとも《文学・評論》よりは細かいカテゴリーに分類してもらえるよう、著者自身がサポートに申請しなければならないのだ。《お問い合わせページ》にあるメールフォームでね。

上述したランキングは、つまり《SF・ホラー・ファンタジー》の本を無料で出版している著者のうち、このカテゴリー再分類方法を知って申請した人の数でしかない。きっと、《SF・ホラー・ファンタジー》ジャンルのとてつもなく多くの名作・力作が、カテゴリー分けされずに《文学・評論》の海に溺れてしまっているのだ。前々回の記事に書いたとおり、僕自身、ヘリベマルヲさんの記事から赤井五郎さんの記事を読んで、昨日初めてこのカテゴリー再分類に挑戦したわけだ。

エンドユーザー・ベネフィットを真剣に考えたとき、Amazonというショップはカテゴリー分類を自らきちんとやり直さなければいけないと思う。出版時の申請カテゴリーと販売時のカテゴリーが全くリンクしていないだなんて、いったい誰が想像できるだろう?

今までに読んだことのないSF作品を読んでみたいと思ってジャンルで探した読者が、この無料ランキングを見たらどう思うだろうか?
Amazonさんはそのことを考えたことがあるのだろうか?

だけど、システムを修正するなんてそう簡単にはいかないだろう。どれだけ大きなDBシステムが背後で動いているのか、素人には分からないけれど、何人かの著者が騒いだところで手を付けられるような代物ではないことくらいは容易に想像がつく。だから今は、僕らコンテンツ・ホルダーである著者自身が、どんどんカテゴリー再分類に声を上げるしかないのだ。そうすれば、このランキングが本当の出版数と少しずつリンクしてきて、いずれは本当に読まれている《そのジャンルの》本がきちんと上位に並ぶ日が来るだろう。
もちろん、最終的にはそれがAmazonさんの技術者を動かして、DBシステムがきちんと整えられることを切に望んでいるのだけれど。

だから今は、まだご自分の著作が変な分類にされてしまっているセルフ作家の方々に、僕は声を大にしてこのことを言いたいのだ!

この記事がいつか、誰かの役に立ちますように……。

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(本記事は後編の後の続編にあたります。妙なリンクですが……)

プライスマッチによる無料化のご報告。が……!?

同時に無料化した4冊
同時に無料化した4冊

いよいよプライスマッチによって4作が同時に無料化されました。
しかしこうやって表紙画像を並べると、節操ないですねえ。《ほっこり暖かい家族小説》の隣が《ちょいホラー寄りSF》だなんて、人間性を疑われそうです。

それはともあれ、無料化と同時に無料アピールの表紙に差し替えるためのデータを提出しました。それが上の画像なわけです。

と・こ・ろ・が、です。
データを提出するには管理ページに入って更新する必要がありますよね。
つまり、再度出版の手続きをすることになります。新しい表紙をアップロードして、「保存して継続」ボタンを押すと……、そうです。価格一覧が出るのです。当然ここに0円と入力することは許されないので、元々の金額を残したままで「保存して出版」ボタンを押すことになります。

そうすると、壁色のパステルは250円で再出版、各短編は99円で再出版。となってしまうわけです。不安ですねー、たった一晩で有料に戻ってしまったらどうしよう!
そこで、AmazonKDPサポートさんにメールを送りました。

プライスマッチによって無料化してくださった著作を無料本用表紙に差し替えましたが、更新時には有料の価格が入ってしまうので、どうか無料を継続してください。というような内容です。

さて、明日中には冒頭の表紙画像に差し替わっているでしょうから、その時に無料のままでいられるのか、すぐに結果は出ますね。
もしダメなら、またすぐにKDPサポートさんにお願いしなきゃ、です。

あ、もちろん、今から焦ってポチってくださってもいいのですよ!

さて、この記事がいつか誰かの役に立ちますように!

よし、何とかなった。しかし……

さんざん苦しまされた『そののちの世界』のePub編集ですが、ようやく終了してAmazonさんにデータを提出する直前まで来ました。
何がそんなに大変だったかというと、この短編集は途中から執筆環境を変更したことによって、生成するePUbの構造が全く異なったものになっていたからなのです。

以前の環境は:
執筆/iText Pro
変換/easy epub
これが、短編集の前半を執筆・変換した環境です。

現在の環境は:
執筆&変換/Hagoromo
これが、短編集の後半を執筆・変換した環境です。

あ、もちろん、移動中のテキスト打ちはiPod touchでPlainText2ですが。

Hagoromoは完成時と同じ縦書きで執筆しながらルビをふり、圏点をふり、相対的な文字サイズや行揃えなど、最終的なePubデータとほぼ同じ状態で書き進めることができます。これはとても素晴らしいことなのですが、一つ盲点がありました。
それぞれの物語は短編で、基本的にePub内の文書本体データは1ファイルのみでした。今回の合冊化では、当然のこととして各短編ごとに文書データ(xhtml)を分割する必要がありました。全ての文書を1ファイルにまとめてしまうと、Kindle端末のメモリーを圧迫してしまい、ページめくりがもたついたり表示がスムーズでなくなったりするのだそうです。
そこで、Hagoromoの機能を勉強し、章ごとにデータを分割するようにしました。Hagoromoにはアウトラインプロセッサの機能があり、章タイトルをアウトラインの親要素に指定すると、ePub書き出し時に改ページさせることが出来るのです。基本的にePub3では改ページ=別ファイルと考えられましたので、これで問題は解決、と思ったわけです。

ところが、これが違っていました。たしかにアウトライン機能を用いて書き出したePubは改ページされていました。でも、ファイルは分割されず、一つのままでした。実はこのHagoromoは、古いePubリーダーにも対応できるよう、旧形式互換のデータを吐き出すような仕組みになっているらしいのです。(まあ、技術的なことはよく分かりませんが……)
ePub2(もしくは古い仕様のePub3?)の中にはtoc.ncxというファイルがあって、これが端末上での改ページをコントロールしています。tocとはTable of Contents、つまり目次を制御するファイルということなのでしょう。これでコントロールされているため、文書ファイルを分割する必要がないのです。

前述のように執筆の前後半で環境を変えていたので、書き出されるePubも全く違うものになっていました。これを同じ構造に合わせない限り、一冊の本としてまとめることは出来ません。
書き出す環境が違えば、改ページだけでなく、cssの記述も全く違いますし、ファイル名のつき方も違います。一見同じようなePubファイルですが、中身をみると完全に異なったものです。
そこで、いったん書き出したePubファイルをバラバラに分解し、cssを全て書き直し、ファイル名を付け直し、圏点や縦中横の記述も書き直しました。

まあ、そう書いてしまえばそれだけなのですがね、何せ十作分、300ページを超える分量なので、修正を入れる度に何かしらエラーが発生します。それを直しているうちに不注意でデータを壊してしまったり、一括検索置換で間違った修正を入れてしまったり、いろいろなことがありました。

教訓:一冊の本は一種類の環境で書け。当然ですね。
それから、章で分ける必要のある本は、Hagoromoの書き出し機能を使うな。(アウトライン機能で分割すると、勝手にインデントが付いたりしますし)

こうして無事、『そののちの世界』の原稿はePubからmobiファイルに変換し、Amazonさんにアップできました。(刊行はまだですが)

さて、これが完了したら次は、後二冊の無料化作業です。そのうちの一冊『壁色のパステル』は、すでに有効なePubに編集済み。楽天KOBOへのアップもすぐに出来ました。

もう一冊残った『さよなら、ロボット』。これが問題でした。

この本は、通常のePubにはないmobi用の構造になっているのです。Amazonのヘルプを見ながら、手作業でmobi用のタグを埋込みながら作ったファイルなので、通常のePubとは互換性がないのでした。具体的な点を挙げると、この物語にはコンピューターに隠された過去のライフログ・ファイルを閲覧するシーンが多く出て来ます。その表現を、囲み罫を使って書いているのです。つまり、段落全体を罫線で囲った状態で表示させているのですね。
下記がそのキャプチャ。

囲み罫を多用している『さよなら、ロボット』
囲み罫を多用している『さよなら、ロボット』

 

これのePub版を考えなきゃ、というわけです。そもそも、『さよなら、ロボット』のePUbはiBooksで開いてもePub Checkを掛けてもものすごい数のエラーが出るので、相当な手術が必要かなあと思っています。Pタグ、Divタグのエラー以外に、Fontタグなんかも使ってるようですし。元は2013年に作ったファイルですからねえ……。

罫囲みをePubで再現する方法があるかどうかは分かりませんが、恐らくはインデントと斜体プラス引用符か何かでそれっぽく表現することになるのでしょうね。

いい方法をご存知の方がいましたら、教えてくださらないかなあ。なんて夢見ている淡波でした。

これから群雛用の原稿も書かなきゃならないし、『さよなら、ロボット』の無料化にはいろいろと越えなければならないハードルがあるようです。というお話でした。
無料になるのを待ってくださっている方、もう少し気長にお待ちくださいませ!

さて、この記事が、いつか誰かの役に立ちますように!
(久し振りの決め文句だ)

まだ、悩んでいる

朝令暮改、前言撤回は当たり前。それは恥ずかしいことではない。と自分に言い聞かせる。

先日の記事『帰納法と演繹法を一度に味わう?』に書いたとおり、今月末に刊行予定の『奇想短編集 そののちの世界』は、ふたとおりの読み方が出来る本として構成している。完結編を冒頭と巻末の二箇所に置いて、読者さんがどちらの楽しみ方も選べるようにという趣向だ。

さて、本当にそれで良かったのか?
実は最初から僕の頭の中にはもう一つの選択肢があった。

短編集と見せておいて、実は一冊の長編だったというやり方だ。昨今、プロの作品にはそういう作りのものが多いようで、無関係だと思って読み進めていたものがあるきっかけでグイグイと収束していくのがとても面白い。それを行うためには完結編をバラバラに分解し、各話の中にまぶしていく必要がある。まあ、言ってしまえば伏線を後から埋め直すような作業だ。技術的には難しいことではないし、ものすごく時間のかかる加工にもならないだろう。上手くやれば、僕の敬愛するブライアン・オールディスの書くような作品に仕立て上げることも可能かもしれない。
でも刊行予定日は確実にずれるだろうし、下手をすると月刊群雛用に書き下ろそうとしている短編にも影響が出てしまうだろう。
作品としても、種明かしを間に挟むことでつまらないものになってしまう恐れもある。いやいや、それを上手くはぐらかして面白く書くのが作家でしょ?
そんな声も既に脳内で渦巻いている。

ここらで一旦、とっくに出来上がっていた表紙を再録しておこうかな。以前の記事で初公開してから、なんと3週間も経っている。随分昔に作ったような気がしていたわけだ……。

これが誰なのか、知りたくなりますね〜、完結編を先に読まずに我慢できますか!?
彼女は一応、お話の中では美人ということになっているのですよ

こういう時、プロの作家は編集さんと相談するのだろうなあと空想してみる。セルフ作家は孤独なのだ。自分の中にバーチャル編集さんを産み出してみる。だがその新人物は、読まれるためのノウハウを何も持っていないわけで、悩みを増幅する人物が増えるだけなのだ。そうして悩みはグルグルと無限軌道を描き続ける。

個人が出す電子書籍なのだから、コストの問題はない。まずは予定通り刊行し、後日長編版を再構成する手もなくはない。内容にガッツリ手を入れて、納得できるまで練り込むのも面白そうだ。
そうやって、悩みは膨張してグルグル、グルグル、グルグル、グルグルと、留まることなく回り続けるのだろう。

でも、いつまで?

『そののちの世界』の予告編映像を公開

ようやく完成しました。
本日音楽の制作と編集の仕上げを一気に行なって、ブック・トレイラーが完成。小説作品のトレイラーとしては『さよらなら、ロボット』『孤独の王』『ケプラーズ5213』に引き続き、四本目になります。

早速こちらにYoutubeのリンクを貼りますね。

この中に含まれる『段ボール箱の人形』で使っているフレーズのみ、もとからあった楽曲のものです。というより、この小説はもともと『段ボール箱の人形』というインスト曲のイメージを発展させて書いたもの。その曲のデータがどこにも見つからなかったため、今回は記憶を頼りに新たに録音しました。
よく考えると、この曲はデータなんてなかったのかもしれません……。たしかまだMacintoshも持っていない頃、4チャンネルのカセットデッキを使って手弾きで録音したものだったのです。その後、シーケンサーに入力したような気がしていたのですが、それはなかったようです。本当は3分くらいの曲ですが、今回はメインテーマの一部分のみを使っています。
いかがでしょうか? 小説の雰囲気と合っていますでしょうか?

他の音楽は、全て本日作って録音したもの。まあ短いですし、音楽というほどのものでもないのですがね……。

あれ?
今日は言葉遣いが違う。
まあ、そんな男です。淡波亮作って。今日は口語体で書く雰囲気ではなかったので……。

予告編も出来たし、あとはePubですねぇ。
(さて、本当に間に合うのか?)

せっかくなので、ここに今までのブック・トレイラーも貼っておきましょうか。
『ケプラーズ5213』

『孤独の王』

『さよらなら、ロボット』

では、宜しくお願いしますねっ!