Category Archives: 詩

詩/がんばれ、アリよ


その小さなからだの
何十倍もある山を
君たちはせっせと築き上げる

山を作るためではないのに
君たちはせっせと築き上げる

その山は君たちのために働かないし
むしろ
城の存在を知られたくない者に
知らしめてしまうだろう

いや、君たちにとって、
知らしめたくない者ではないのだな
君たちがその存在を
「みじんも考慮していない者」だ

土を閉じ込めた人間の
つまらない意思に逆らって
石の隙を君たちは
巧みに掘り進める

その強固な要塞は
大きな敵から君たちの家を守る
どんなに子供が
君たちの山を蹴っ飛ばそうとも
プラスチックのシャベルで
石の間を突っつこうとも

君たちの
その暖かな場所は安泰だ

石の隙間のその奥に
深く深く穿たれた城は

ちょっとした人間なんか
まるで敵わない
君たちだけの空間なのだ

頑張れアリよ
もっともっと掘り進め
もっともっと山を築け

私たちの愚かさをあざ笑え
自然の営みに
生の喜びに

敵うものなんか
いないのだと


第二詩集をそろそろ、と思ってはいますが、なかなか手が付きません……。それまでは、こちらをどうぞ。


淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。
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詩/夜の水たまり


もしも
夜の水たまりに
美しい淋しさを見たとしたら

もしも
ほの暗い外灯に照らされた
しおれた花びらに
美しい哀しさを見たとしたら

それは、
そこにあるから見えたのではない

それは、
わたしの胸の中にある
どうしようもなく重たくて
どうしようもなく厄介な塊が

わたしのこころの表面に
裏側から映し出さずにはいられなかったのだ

世界は
描かれるためにある
でも世界は
描かれるためだけにあるのではない

胸の奥の不確かなものたちと
語り合うためにあるのだ

もしも
悲しい顔をした少年が
胸の奥で泣いていたら

そんなことを
ささやいてみようか
今度こそ




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詩/間違ってる


ぼくらはみんな間違ってるだけだから
正しさになんか
寄りかかる必要はない

当てにならない価値に
価値を感じる必要なんかない

ぼくらはみんな間違ってるだけだから
間違ってる誰かを
責めることなんかできない

うん、
うん、
うん。

だからと言って正しさは
否定すべきことでもない

正しくあろうとし続けることは
間違ってるからこそ
できるものなのだろう?

あなたは正しいんだよって
誰も言ってくれなくたって

あなたはきっと
考え続けるのでしょ

あなたはきっと
探し続けるのでしょ

その先には何もないよって
わけ知り顔で言われたって

手探りで道を外れてゆく姿を
憐れだねってさげすまれたって

考えなくたって
答えはここにあるよって
いやらしい顔で笑われたって

あなたはきっと
あなたでしか

あなたはきっと
考えることでしか

だって、
正しいとか正しくないとか
それが答えなんだって言うみたいに
割り切った顔なんか
できないんだから

きっと、
あなたにだってできないんだから
たぶんぼくと、
おんなじように

ぼくもあなたも
間違ってるだけだから
自分のこころで
探し続けるだけだから




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詩/転がる石

モノの見方を変えること。差し出された答えを疑うこと。
きっと、詩人じゃないのに詩を書く人間にとって、これが大きな動機付けなんじゃないかな、と思う。


転がる石に苔はむさない

変わらないで居続ければ
何かを成し遂げられるだろうと
英国人は言うらしい

変わり続けなければ
新しい気持ちでいられないだろうと
米国人は言うらしい

石は転がらないよ
天邪鬼のぼくはそう言うらしい

転がる石は蹴られた石
転がる石は掘られた石
転がる石は投げられた石

そんな大きさの石に
苔はむさないんじゃないの?
天邪鬼のぼくはそう言うらしい

手入れされていない庭には
苔が生える

そんなような言葉が変化して
この言葉が生まれたらしい
誰かが言っていた

言葉は生きていればこそ
ひとは考えてこそ

どんな意味を見出そうが
そこに何を感じようが
自分のこころがあってこそ

ただ
そこにあるものを
受け入れるだけではない

自分のこころが
あってこそ




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詩/こぶし

季節モノは難しいですね。書いた時にはリアルタイムでも、公開するタイミングが何日か遅れただけで、もう季節外れになってしまうんだもの……。
と、いうことで、もう「春の訪れ」の情景としては微妙に過ぎ去ったものになってしまったようにも思いますが──


黄色や白や桜色
薄紫やクリームの色

春だ春だと
声を大にしているさなか

大きくて厚い花びらが
白くてくたびれた花びらが

はらはらと
さようならを告げている

誰よりも彼よりも真っ先に
春の訪れを告げてくれた

その同じ場所に
醜く太った頬紅色の芋虫が
膨らんでくる頃には

今が春だったことなんか
誰だって彼だって
もう、
覚えてなんかいやしまい

ほんとうは美味しそうな
練り切りのようにも見える
お前のその実を

醜い芋虫のようだと
かかとですり潰す
無垢な笑顔を

お前はそこでじっと
待っているのだね




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詩/詩篇をひとつ

読書ネタがないため、詩篇をひとつ。
予めご了承下さいませ──。
そろそろ第二詩集の準備をしようかと考えている淡波です。


頭の中で練り上げてしまうと
もう
紙に落とす必要なんか
感じなくなっている

紙だって?
いやいや違うよ
詩人もどきさん

こうやって明滅する
冷たいディスプレイに
記号みたいな
意味のない四角を叩いて

ただ、
表示させるんだろ?

それは
この小さなコンピューターの中で
ゼロと1の連なりに置き換えられて

周りの数字たちには
何も気取られることなく

詩作を気取っているのだろう

おそらくは永遠に
紙とインクで
定着されることもなく

もしも詩集になったとしたって
それはゼロと1の行列にしか
過ぎないのだよ

だったら
30年前のように
紙に走り書きしようか?

それは今より
「詩」らしい顔を
みんなに見せてくれるのだろうか?

それともそれは
ゼロと1に置き換えられる前の
下書きに過ぎないのだろうか?

さっきの
ぼくの頭の中と
おんなじで

ただ
忘れないための
下書きとして

詩篇をひとつ




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詩/テーマだって?

テーマだって?

テーマがあれば
心はその上を

するすると
滑ってゆくことだってできる

テーマがあれば
悩むことなんかなく
ある一つの方向を
じっと見定めて

振り向きながらも
歩き出すことが
できるだろう

そう、
思うことがあるかい?

テーマだって?

そんなこと
考えている暇があったら
感じに行けよ

「スマホを捨てよ!」
「カメラを捨てよ!」

書き味の悪い黒いペンで、
クッシャクシャのレシートにでも
今見たことを書き殴ってみろよ

それでなんにも見えてこなくたって
いいかもしれないんだぜ

石をその小さな手につかんで
公園の地面にしゃがみ込んで
ヘッタクソなドラえもんだとか
うんこだとか、
誰だかぜんぜんわからないヒーローだとか、

お尻に泥をつけながら描いていた日を──

でも、
そんなこと
思い出さなくたっていいんだ

今さら、
そんな気持ちになれなくたっていいんだ

でもさ、
書くことを始めた日が、
ぼくにだって、きみにだってあるだろ?

書きたいと心の底から震えた日が
ぼくにだって、きみにだってあるだろ?

忘れていたっていい
ただ、
そんな日があったことは

ときどき
思い出しておこうよ

テーマなんか
いらないから




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詩/「わたしのこと、わかってほしい」

「わたしのこと、わかってほしい」
「きみのこと、わかってあげたい」

「あなたになんか、わかるわけない」
「ぼくになんか、わかるわけない」

噛み合うことのない
絡み合うことのない
ぼくらの平行世界は

まるで
プラスチックで作られたSFみたいに
未来へずんずん続いている

「きみのきもちは、わかる気がするよ」
「あなたにわかってもらえて、とってもうれしい」

それは、平行のまま
わかりあうという
永遠の矛盾を抱えて

きみとぼくの未来を
形づくってゆくのだ

幸せとか
不幸せとか
悲しみとか
喜びとか

少しずつ、ほんの少しずつだけ
重なり合う何かが
二人の間を流れてくれる

そういう瞬間が
同じ瞬間に感じられれば

それは永遠の平行世界を
耐えられる現実に
引き寄せてくれるんだ

だから、
今日もそっと、
声に出さずに言ってみる

「きみのこと、わかってあげたい」って




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詩/いやなやつなんて、いない

いやなやつなんて、いない

ちょっとした拍子に
いやな顔をしてしまうだけだ

いやな顔は、誰だって持っている
僕だって
君だって
君の大事なあの子だって
君のお母さんだって
君のおじいちゃんだって

それが、
君に向けられるときに
君が見ていなかっただけ
かもしれないよ
それが向けられる先に君がいなければ

それはそれで幸せなこと
かもしれないよ

だけどね、
それはひょっとしたら
幸せなことなんかじゃない
かもしれないよ

君に向けられた
あの笑顔は
ほんとうに、
君に向けられたもの
だったかい?

それともあの人は、
誰も見てやしなかった

そんなことはなかったかい?

いい人なんか、いないよ

だって、
僕がそう言うんだもの
間違いないでしょう?

でも、
いい気持ちでいたくなる
優しい気持ちでいたくなる
ただ、
にっこりと笑って
見守っていたくなる

そんなときは、
いい人でい続けることも
できそうな気がするよ

しばらくの間、だけだけどね

ずっと、
同じ人でいることなんか
できない

そうだよ、
それはきっと
誰だってできない

誰もが誰かの鏡なんだし
誰も誰かの鏡なんかじゃないんだ

いやなやつなんて、いない
いいやつなんて、いない

みんな、
君と同じくらいに
複雑なんだから、さ




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詩/こんなかたちで


こんなかたちで
きみは僕たちから離れてゆく
ときおり想像していたより
十年も早く

こんなかたちで

きみの心を受け止めたくて
すれちがって
からまわりして
寄り添いきれなかった
僕たちは

きみを寿いで
心配して
笑顔でいよう

愛し愛されたまま
離れてゆくことを

僕たちは
寿いで笑おう

きみの心が
どこかへ行ってしまうことは
決してないのだと

それだけは大丈夫だと
僕たちの心が

それを信じなさいと
告げてくれるから




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