Category Archives: 詩

『ティプトン』連載第14回

“俺も、そうだな……。ケプラーの植物をこの目で見たい。ここのネイチャー・シリンダーなんかにはない、圧倒的に多様な生態系があるんだろうな。俺も、この足でケプラーの大地を踏みしめたいよ”

『ケプラーズ5213』より


── 14 ──


それでも
ネイチャー・シリンダーには
わたしたち全員の夢がある

それが間違いなく
わたしたちを作った星に
存在していたのだという
夢がある

それは

(電子書籍化にあたり、公開を終了しました。本連載記事における公開分は、全体のごく一部になっています。ご興味のある方は、電子書籍版をお買い求めくださいますと幸いです)


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。

 

『ティプトン』連載第13回

“私たち子孫には、一九三九年以降の科学をできる限り封印しようとしたの。ここケプラー186fに辿り着くために必要な航行やハイパースリープを安全に維持する技術以外は、一般の人間には極力触れさせないようにした。だから、私たちは自分たちの手で宇宙船を建造することも、コンピューターを作ることもできない。”

『ケプラーズ5213』より


── 13 ──


絵のようなものだと
教師は言った
動く絵のようなものだと

楽器を奏でると
音楽が生まれるように
無から作った絵を動かす機械が
その昔はあったのだと

動く絵とは何だろう
あれは、動く写真ではないのか

だが
写真ではないと教師は言った

あの空も、海も、山も
本当はどこにもないものなのだと
教師は笑った

わたしは何も想像することができず
卑屈に笑った

夢のようなものだとも言った
想像できるものは
何でも形にできたのだと

絵だけではない
触ることのできる形にさえ
できたのだと

わたしは思い出すのだ
そうやって作られた虚偽の夢で
わたしたちの目的や
生きるためのエネルギーや
愛情ですら
生み出されたのだと

わたしたちの足下は
あの丸い窓の外に広がる
永遠の虚空のほかには
何もないのだ

わたしたちは
本当に飛んでいるのか

その星は
本当にわたしたちを
待っているのか


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。

 

『ティプトン』連載第12回

“老人は、その目で見たことのない地球や、決して辿り着くことのないケプラー186fの姿をそこに感じながら、最期の時を迎えるのだ。”

『ケプラーズ5213』より


── 12 ──


わたしは一度だけ
見たことがある
まだ
学生の頃だった
まだ
振り分けられてはいなかった

青い星という形容は
まさに地球のためにこそ
存在するのだと知った

海だ
圧倒的な海だ

山だ
とてつもない山だ

空だ
終わりのない空だ

わたしたちの周りを包む空のように
漆黒ではない
青い
空だ

海も
空も
視界には収まりきらないのだ

想像できるかい?

本当に
この世にはそんなに大きいものが
あるのだと

しかし言った
教師が言った

この映像は
本物の地球ではないと

わたしには
その言葉の意味は解らなかった

教師は得意顔で続けた

地球を撮影した映像は
この世に存在しないのだと

わたしは目の前の映像から目を背け
ただ
途方に暮れた

わたしは
何を信じればいいのだ


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。

 

『ティプトン』連載第11回

“ティオセノス号に裁判所はない。コントロール・センターとその直下に位置する警察組織がすべての管理権限を掌握し、管轄の教師とその管理下にある学校の生徒たちを管理している。”

『ケプラーズ5213』より


── 11 ──


あの少女は知っていたのだ

わたしが
嘘の城に隠れ住んでいることを

あの少女は束の間
わたしに見せてくれようとしたのだ

わたしの築き上げた檻は
簡単に抜け出すことができる程度の
やわな造りなのだと

あの少女は束の間
わたしに見せてくれようとしたのだ

漆黒の中にこそ
光が生まれることを

わたしは恥じる

絶望とは
わたしのような者のために用意された
浅はかな言葉ではないのだ

この船は
希望を生むためだけに
あの少女を産んでくれたのだ

少年の選んだ
あの少女こそが
わたしたちの漆黒の中に産み落とされた
新しい光の粒なのだ

あの少女こそが


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地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
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だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。

 

『ティプトン』連載第10回

“農民として食料生産に携わるアフタースリープ世代は、この宇宙での放浪生活が永遠に続くと思い込むことで、逃げ場のないこの空間を自分の故郷と考えることもできたのだ。”

『ケプラーズ5213』より


── 10 ──


星などない

窓の外にあるのは
漆黒の虚空だ

星は微塵も動きはしない

わたしは見たのだ

わたしたちの船は
どこにも向かってなどいない

飛んでいるのかすら
怪しいものだ

ジャンプだって?
時空を超えるだって?

知ったものか

あれはきっと
彗星か何かが
近くを通った時の
言い訳なのだ

わたしたちは永遠に
何もない漆黒の虚空で
ただじっと浮かんでいるのだ

目的地などない
星などない

そうでなければこの人生が
このままひっそりと終わってしまうことに
耐えられるわけがないではないか

選ばれたものだけが眠り
《希望の星》との出会いを待っている?

まさか!

わたしの寂しい人生とともに
この世界は終わるのだから!


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


『ティプトン』連載第9回

“廊下には、ハイパースリーパーに癒しの睡眠音楽を聴かせるための、というよりは行き場と死に場のない老人に与えられた音楽ワゴンが置き忘れられていた。”

『ケプラーズ5213』より


── 9 ──


文化は
必要だろうか

文明は
必要だろうか

わたしの奏でる銀色の音楽は
作り物でない本当の大地で

どんな響きを聴かせながら
青い空へ立ち昇ってゆくのだろうか

わたしの詩を
大木の木陰に腰掛けて
大声で読み上げる若者が
一人でもいるだろうか

いつか

もしもまだ
誰か一人でも
生きていたのなら

名前しか知らぬ
はるかな星で


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晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


『ティプトン』連載第8回

“「この場所は、俺たちが最初の上陸だ。まだ何の調査も入ってないよ。だから、未知の病原菌がいないかどうかは、全然分からないね」
「そんな状態でお前、昨日外に出たのか?」”

『ケプラーズ5213』より


── 8 ──


医療、とは、
なんだ?

医薬、とは、
なんだ?

今や
この船の上に存在する自然から
十分な医薬が得られると

コントロール・センターは言う

私たちを
何も知らない愚か者だと
断じているのだ

私たちは知っている
記録は
嘘を吐かぬものだ

私たちが星を捨てた頃
この船には数え切れないほどの種類の
丸く、白く、軽い
《乾いた小粒》が保管されていたという

それこそが、医薬というものだと
私に耳打ちしてくれた者がいた

もちろん
私も彼も、その《乾いた小粒》を
実際に眼にしたことなどはなかった

私は想像し、空想し、
発見した
嫌な気持ちに包まれた自分を

支配者たちは病を恐れ
それを保管し続けた

私は
知っている

誰も顧みない図書室の片隅に
当時の医薬の処方が埋もれていることを

私たちの誰ひとりとして
必要とはしないその医薬を

とうの昔に世を去った支配者たちは
金のようにあがめたのだ
金、以上にだ

いや、金──ゴールド──とはなんだろう?
希少価値とはなんだろう?
いくらでも手に入るものなど
この船には1つもない

医薬とは、なんだったのだろう?

私は
知っている

私たちが知っている病の数を
遥かに上回る種類の医薬が

山のように積まれていたことを

私は
知っている

人類の存在
それ自身が

数え切れぬほどの種類の病を
自らの内に
生み出したのだということを

コントロール・センターの嘘は
もはや憎むべきものではない

癒せない病は
医薬などもう──

私たちはただ
生きているのだ

私たちはただ
死にゆくのだ


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晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


『ティプトン』連載第7回

“ソーは再び視線を冷凍睡眠装置の中で眠るケイトの横顔に向け、手にしたフラッシュライトの光でそっと照らした。細くて形の良い鼻筋は少しだけ反っていて、固く閉じた目にはシルバーブロンドの長い睫毛がきれいな半月を描いていた。冷凍されているというのに、僅かに開いて見える唇には血の気があるかのような赤味が差していた。”

『ケプラーズ5213』より


── 7 ──


花のような少女という比喩を
わたしはあるとき見つけた

わたしの知っている自然の中に
あの少女のような花はない

その言葉が生まれたとき
花は、
少女たちは、
美しかったのだろう

私の人生の中で
出逢うかもしれない
どんなに美しいものよりも
きっと

長いのか
短いのか
囚われているのか
自由なのか

答えのない
宙ぶらりんの心で

ああ
それでもなお
その言葉を愛おしいと思うわたしは

少女のような花の美しさを
愛おしいと思わずには
想像せずには
いられないのだ

恋しているだろうか?

花のような少女は

あの
少年を


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晩年の詩人ティプトンがちょっとした脇役として登場するSF大作『ケプラーズ5213』は、現在最後の無料キャンペーン中です。
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地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


『ティプトン』連載第6回

“「じゃあ、このまま俺たちは宇宙で死んでいくのか?」
「そうだ、せっかく、ケプラーに辿り着けそうな世代に生まれたのにな」
「ケプラー186f……どんなところだろうな。ネイチャー・シリンダーよりずっと広いんだろう?」”

『ケプラーズ5213』より


── 6 ──


諦めるために生まれたのか
生まれたから諦めるのか
生き続けるためだけに生きるのか
死なないためだけに生きるのか

誰が
私の存在を

誰が
あなたの存在を

誰が
この船の存在を

誰が
あの星の存在を

誰が


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地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


『ティプトン』連載第5回

“だが、センターの定めたハイパースリープ期間を破るだけに留まらず、人口調節の規律をも破ってしまうことになるだろう。それは、犯罪なのだろうか? ソーは自問した。”

『ケプラーズ5213』より


── 5 ──


バースコントロールは
簡単だ

この船の人口を
将来の安定を
約束するために

コントロール・センターはコントロールする
コントロール・センターはいくらでも嘘を吐く

平気な顔で

彼らは
いとも簡単に不足した人口を補う

私たちに
知らされる事は決してない

事実
真実
私たちは──何者か?

この船のほんとうの出生率は
記録に残されているものより
はるかに高い

不足する若年人口を
人知れず補わなければ

この船に未来は無いのだから


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地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。