『ティプトン』連載第8回

“「この場所は、俺たちが最初の上陸だ。まだ何の調査も入ってないよ。だから、未知の病原菌がいないかどうかは、全然分からないね」
「そんな状態でお前、昨日外に出たのか?」”

『ケプラーズ5213』より


── 8 ──


医療、とは、
なんだ?

医薬、とは、
なんだ?

今や
この船の上に存在する自然から
十分な医薬が得られると

コントロール・センターは言う

私たちを
何も知らない愚か者だと
断じているのだ

私たちは知っている
記録は
嘘を吐かぬものだ

私たちが星を捨てた頃
この船には数え切れないほどの種類の
丸く、白く、軽い
《乾いた小粒》が保管されていたという

それこそが、医薬というものだと
私に耳打ちしてくれた者がいた

もちろん
私も彼も、その《乾いた小粒》を
実際に眼にしたことなどはなかった

私は想像し、空想し、
発見した
嫌な気持ちに包まれた自分を

支配者たちは病を恐れ
それを保管し続けた

私は
知っている

誰も顧みない図書室の片隅に
当時の医薬の処方が埋もれていることを

私たちの誰ひとりとして
必要とはしないその医薬を

とうの昔に世を去った支配者たちは
金のようにあがめたのだ
金、以上にだ

いや、金──ゴールド──とはなんだろう?
希少価値とはなんだろう?
いくらでも手に入るものなど
この船には1つもない

医薬とは、なんだったのだろう?

私は
知っている

私たちが知っている病の数を
遥かに上回る種類の医薬が

山のように積まれていたことを

私は
知っている

人類の存在
それ自身が

数え切れぬほどの種類の病を
自らの内に
生み出したのだということを

コントロール・センターの嘘は
もはや憎むべきものではない

癒せない病は
医薬などもう──

私たちはただ
生きているのだ

私たちはただ
死にゆくのだ


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


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