『ティプトン』連載第9回

“廊下には、ハイパースリーパーに癒しの睡眠音楽を聴かせるための、というよりは行き場と死に場のない老人に与えられた音楽ワゴンが置き忘れられていた。”

『ケプラーズ5213』より


── 9 ──


文化は
必要だろうか

文明は
必要だろうか

わたしの奏でる銀色の音楽は
作り物でない本当の大地で

どんな響きを聴かせながら
青い空へ立ち昇ってゆくのだろうか

わたしの詩を
大木の木陰に腰掛けて
大声で読み上げる若者が
一人でもいるだろうか

いつか

もしもまだ
誰か一人でも
生きていたのなら

名前しか知らぬ
はるかな星で


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


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