正直、びっくりした。2つの意味で。
まずは登壇者の方々のレベルの高さ。楽しいとか趣味とか言ってる場合じゃない。みんなガチで、Blenderを使い倒してる。深い。
2つ目は、ここまでCG業界の日常業務に浸透していたのかという驚き。僕自身、業務でBlenderをかなり使っているけど、それはあくまでも隙間的なというか、メインツールとは一味違う使い方だったりする。グループワークや他者とのデータ共有など考えると、メインはどうしてもやっぱりMaya、3ds maxになる。
もちろん、モデリングツールとして、UVツールとして、リギングツールとして、Blenderの機能は素晴らしい。Cyclesのレンダリングだって、ひと昔前の単体数万円レンダラーを完全に凌駕しているし、コンポジターの柔軟性だってたいしたものだ。スピード以外では。
そう思ってきたのが、時代遅れだと思わせられるくらいに、Blenderは業務の世界で認められている。
ちょっと前までは、そんなことを言うと負け惜しみだと笑われるような空気があったけどね、これはもう笑い事ではない。
Maya、3ds maxと並ぶメインツールとして使われても遜色のない時代が、本当にもうすぐそこまで来ているんだ!
はい、ここですっかり迷子になっているあなた。済みません。今回は文芸関連の話はありません……! Blenderというのはオープンソースで開発されている無料のCG制作統合ツールで、何十万円もするプロ用ソフトと遜色がないばかりか、優れた点も多々持ち合わせているというCGソフト業界を揺るがす存在なのです、はい。 (もちろん劣った点も多々あるけど、完璧なツールというのはないので、選択肢の一つになっていくことは間違いないだろうな……と!) 今回の記事は、そんなBlenderの日本におけるユーザー会であるBLUGの勉強会であるBlendxJPに参加してきた報告記になりますです。
では、最初の登壇者であるキャラクターの名手、友さんのお話から。
ある有名美少女キャラクターを、「持ち時間の30分でモデリングしてマテリアルをつけるところまでやりますよ」というつかみに会場がどよめいた。これは凄いぞ、って。
で、お話が始まって、友さんのユーモアセンスが爆発。
「やっぱり無理なんで、3分間クッキング形式で行きます」と。
どんどん次のシーンファイルを開くタイミングの絶妙さに、会場は爆笑。
やはりモデリングはちくちく時間をかけてやることなので、マテリアル調整のTipsに絞って細かく説明してくださったのは大正解だったんではないかと。難しいと思われがちなノードエディターでの調整テクも分かりやすかったし、なにしろ楽しかったなあ。
で、友さんは、この日の解説に用いたモデルを使った次の著書(商業本)も執筆中なんだって!
絶妙に宣伝に繋ぐセンスも見習いたいっ!
お次の登壇者はアニメの作画監督である酒向大輔さん(超メジャー級作品の製作中画面までたっぷり見せてくださった!)
※酒向さんはどこへリンクを張ったら良いか分からなかったので、画像検索結果ですw (あの作品の絵が!)
酒向さんは、アニメーションの絵作りをする時に3Dで一度全体の世界をざっくり立ち上げて、動きまで作ってからカメラアングルやレンズを決め、それをもとにして手で絵を描き、後工程に回すということをなさってる。より観客目線で、ダイナミックな演出が可能になったと。Blenderというツールを使うことで、構成力の勉強になる。画力は鍛錬するしかないスポーツのようなものだけど、上手にツールを用いれば効率的に学ぶことが出来る。絵描きは、いったん描いたものなら何も見ずに描けるから。うーん、その通り!
それにしても、酒向さんはBlenderを始めてから一年も経っていないとのこと。そんなに短期間で自動車やキャラクターの動きが自然に出来るところまでマスターなさってるところがもう、凄いの一言。やっぱり一流のひとは何をやっても凄いんだなあ……。
お次はプロの漫画家さんお二人が連続してご登壇(このお二人の話を聞きたくて参加した漫画家さんも多かったらしい!)。
プロの漫画家さんが、背景や小道具を作るためのツールとして、Blenderをばりばりに使い倒している現実をつぶさに見せていただいて、衝撃を受けた同業者の方たちも多かった模様。
何しろ、登壇者のお一人藤原佑介さんは、Blenderで効率化出来るから週刊連載が楽勝でこなせると仰ってるし、村川和宏さんも、全部自分一人でやるとした場合に、自分で描くよりBlenderでやる方が速いって言うんだもの。
Freestyleによる描画を手書きの線に近づけ、自筆の表現と馴染むように研究を続ける村川さんの求道的な姿勢、素晴らしい!
Blenderでいったん作っておけば、舞台となる街並みとか背景は必ず何度も出てくるし、小道具だって決まったものが登場人物といろいろな絡み方をする。確かに3Dで最初に作るのは大変だけれど(外注や素材購入という手段もあるし、フリーでDL出来るデータもあり)、アングルや見せ方が自由になるし、かなりの効率化になるという──。
藤原さんはご自分で効率化のためのアドオンも多数開発なさっているという猛者。プロ漫画家でありながらプログラミングまで! もう、凄いの一言。Blender作業の効率化をするために開発したアドオンを無償で公開してくださっているのも特筆モノ!
こちらは、部屋を簡単に作るRoom Toolsというアドオン。すごい!
藤原佑介さんは、ご自分でも「(漫画家と言っていいのか)」、と仰っているとおり、いわゆる普通の漫画家さんとは違う、全く新しい職業形態を開発なさっている方、と言えばいいのかな。商業漫画のために3Dを導入するとメリットになる部分を、コンサル的な立ち位置から開発、3D作画、監修まで行なうという、かつては考えられなかった新しい職種なんです。
※なお、藤原さんの発表資料は、なんと本日から早速Boothにて発売してくださってます(版権系の画像はモザイク処理されています)。ポスターの画像データや発表の音声mp4、参考の自動車.blendデータも入って盛りだくさんです。気になる方はこちらへ!
そして圧巻は、フリーランスのコンポジターでありマッチムーバー、クロノさん。カメラトラッキング業務の95%はBlenderで、他の有償ツールより優れている部分が多いとのこと。しかも超メジャー級映画でも使っているとのこと(作品名を聞いたけど、それはナイショみたい⇒作品名の出たツイートもあったけどね……w)。
Blenderのマッチムーブツールは良いという話は聞くけど、そこまでとは!(僕もそう言えば昨年、ホタルが飛ぶシーンを作ったことを思い出した。あれは難しかったなあ……)
やっぱり3Dソフトの中に入っているツールなので、単体のツールにはない使い勝手の良さ、3D機能の優位性があるそう。肝心の内容は、ちょっと高度過ぎて、大ざっぱな概要しか理解できなかった。情報の少ない中、自分で試行錯誤してベストなやり方(しかも商用ソフトより優れた方法)を導いているクロノさん。すごいなあ。
最後の登壇者はV-Rayのスペシャリスト、ハヤシヒカルさん。Blenderで使える外部レンダリングエンジンとしてのV-RayとRendermanのお話がメイン(タイトルが「走れCyclesレンダー」だったのに……というのはご愛嬌かw)。V-RayよりもRendermanのほうがBlenderへの統合が進んでいるので、設定としては少々取っ付きにくいけどオススメ、だそう。非商用なら無料だし。
その他にも、LT(Lightening Talk)が何本かあって、実はこちらもなかなかの濃さだった。ミュージック・ビデオの世界でも使われているとか、プログラミングでパラメトリックなモデリングをした形状を3Dプリンタで出している方とか……面白い、凄い話題が目白押しで!
スタッフの方々、たいへん素晴らしい会を主宰してくださってほんとうにありがとうございました! この場を借りて(てか、読まれない可能性大かもだけど……)、厚く熱く御礼差し上げます!
もう、「凄い凄い!」ばっかりで、圧倒されっ放しの一日だった。
こちら、スタッフであるBlender会の有名人、藤堂++さんと前田慈人さんによるポスターも、ご鑑賞あれ。
最後におまけです。実は名刺をどこかへなくしてしまい(最近ぜんぜん使ってなかった)、急遽会場に向かう電車の中で手書き名刺を作りました。コンビニでノートパッドと鋏を買って!
電車の中で鋏をチョキチョキ使っていたので、危険人物と思われなくて良かったなあと今さらながらに胸を撫で下ろす淡波です。
じゃ、また明晩!