本作は、スティーヴン・キングの『Different Seasons (邦題:恐怖の四季)』へのオマージュ? とも思える、春夏秋冬をテーマにした四つの短編を二冊に分けて出版される企画の一冊目です。
アンディ・ディフレーン(『Rita Hayworth and the Shawshank Redemption(邦題:『刑務所のリタ・ヘイワース』→映画では『ショーシャンクの空に』)』の主人公の名前)なんて言葉がポンと出てくる当たり、ヤマダさん、しっかり意識してますよね。
にしても、本家の邦題が気にくわないなあ、と思っているのは僕だけではないでしょう。特に映画。
Different Seasonsは、キングが大長編を書いた後でちょっと息抜きとして書いた中編ということです。別にホラー小説を意識したわけではないと思うのですよね。特にリタ・ヘイワースとスタンド・バイ・ミーは全然ホラーじゃないし。出版社とか配給会社のあざとさを感じないわけにはいきませんよね──。
なぜ、『それぞれの四季』じゃダメなんだ、と思っちゃいます。ずっと風情があるのに。
特に、『ショーシャンクの空に』ってタイトルはもう、ふざけてんのか! としか思えません。あんなに素晴らしい映画なのに、このタイトルの「感動しろよ」加減が許せないのは僕だけではないでしょう(あ、僕だけ?)。
《刑務所にリタ・ヘイワース(往年のセクシー大女優)》という組み合わせが肝なのに! と、映画のタイトルを初めて聞いた時には思ったものです。
この四作の中で三作が映画になっていますが(って、凄過ぎますよね)、誰でも知っている『スタンド・バイ・ミー』は、本当は『The Body』というタイトル。邦題も映画も……。
三番目に映画になった『Apt Pupil』は、直訳だと『賢い生徒』。で、邦題は『ゴールデンボーイ』もう、わけ分かりません。
唯一映画になっていない『Breathing Method』に到っては、直訳だと『呼吸法』ですが、邦題は『ニューヨークの奇譚倶楽部』ですからね。まあ、内容からすると解りますし、呼吸法、じゃあ日本語小説のタイトルとしてどうかとは思いますが。
あ、脱線し過ぎました。
今回読んだのは、ヤマダマコトさんの『ピーカブー』。四季テーマのうちの秋冬編にあたるそうです。
読んでいるうちにびっくりしました。
まあ、僕以外にびっくりする人はいない事情なんですが、一作目の『アサギマダラ』は輪廻を扱った話です。そう、ちょうどこれを読み始めた時、僕も『瞳』という輪廻を扱った短編(最新作の『光を纏う女』とカップリング)を書いている途中だったんです。
(だから、ヤマダさん、読んで!)
全体の構造もどことなく近しいものがあって、面白い偶然だなあと思ってました。
で、『アサギマダラ』、どうなのよ?
う〜ん、良かったです。本当にとても良かったです。
よく言われますが、《谷が深いほど山は高くなる》の好例ですね。
アサギマダラの過去の話はかなり読んでいて辛いものがありました。でも、それがあってこそ最後にずーんと感動が押し寄せるのですよね……。僕にはこういう激しいリアルな表現をする覚悟が未だにありません(あ、あのくらい普通でしょ、ですって? そこは、読んでのお楽しみ、ということで)。
このくらい短い物語でも心にずしんと響くものが書けるって、凄いですね。さすがヤマダさんです。
僕はどうしても対象を突き放したような書き方になりがちなので、二人称でああいった迫られ方をすると、もう「参った!」と言うしかありません……。
二作目の『変人たちのクリスマス』
これ、ひたすら洒落てます。アイデア自体は目新しいものではないのだけれど、巧いです。
とてもオリジナルなものに感じさせてくれる筆力に脱帽です。
春夏編も、とても楽しみですね。
では、また明晩!