『奇想短編集そののちの世界』の第九話、『希望の船』 を刊行しました。昨年12月15日から始まった淡波亮作刊行ラッシュもちょうど三ヶ月目、いよいよ最終作の執筆も始まっています。
さて、この『希望の船』 ですが、表紙の宇宙船に見覚えのある方はいらっしゃいますか?
『希望の船』表紙
そうですね、これは、予告編映像などに登場している巨大なスペースコロニー型宇宙船ティオセノス号です。(この船には、十万人もの人間が乗っているんですよ!)
実はこの短編、刊行ラッシュの初回を飾った長編SF冒険物語『ケプラーズ5213』 の前日譚をなすストーリーなのです。『ケプラーズ5213』 の時間軸は、ティオセノス号が惑星ケプラー186fに近づきつつあるところから始まりますが、人類がなぜ地球を離れることになったかについては、あまり詳しく述べられていません。(ちなみに、小説自体の始まりは惑星に到着したところから、ですが)
この『希望の船』 を含む短編シリーズ『そののちの世界』は、《科学と文明の過剰な発達がもたらすかもしれない様々な「そののちの世界」の出来事》を描いたものです。ここでは、なぜ地球が人類にとって生息が不可能になってしまうほどその環境を悪化させてしまったのか、この巨大なプロジェクトが誰の手によって計画・推進され、実現されたのか、などに焦点を当て、スリリングに描いています。ケプラーズをお読みになった方はもちろん、こちらを先に読んでからケプラーズを読むと、面白さ倍増ですよ!
さて、『希望の船』 では、新たに一つの試みを盛り込んでいます。本編の後ろに『ケプラーズ5213』 の冒頭部分を試し読みとして入れているのです。これは、通常アマゾンからダウンロードできるサンプル版とは異なり、第三章まで読めます。こちらのランディングページにあるお試し読み版は第二章までなので、それよりさらに長く読めるというわけです。
『ケプラーズ5213』ランディングページ
お試し分を読んでいる間に、ストーリーにどっぷり浸かってもらい、もう続きを読まないではいられなくなる、という作戦なのですが、どうなりますか……。
この手法、アメリカのペーパーバックなどではよく使われているもので、僕もこれまでスティーヴン・キングやダン・ブラウンの小説でこれにやられ、次の小説をついつい購入していました。
短編はそれぞれ99円という価格設定にしています。缶コーヒー一杯より安いお値段ですが、それ以上の満足は必ず得られると信じています!
(追記:価格改定により、長めの作品は140円になりました)
『希望の船』 の冒頭部分を、こちらに載せておきましょう。少しでも興味を持っていただけると良いのですが……!
希望の船
二一八三年、アメリカ合衆国ワシントンDC。
「中国は一万人を希望しているそうですが、どう対処しますか?」
アダムズが困りはてた顔で、書類の束をテーブルに置いた。
「一万人? あいつら気は確かなのか」
ストラスバーグが書類の束をパラパラとめくり、首を横に振った。
「経済的側面からも文化的側面からも当然の権利であると、書面の結びに……」
「はん! 放っておけ。自分たちの言っていることがいかに常識外れなのか、いずれ嫌でも分かるだろう」
「でも議長、中国の要望をそうやって撥ねつけるのなら、振り返って我々自身の要求は他国の理解を得られるのでしょうか?」
「当たり前だ。誰が調査し、計画を立て、設計の中心になってきたと思ってる」
「それはもちろん我が国ですが、これは国際事業ですし、」
「構成メンバーの半数はアジア、資金の六割はアジアが負担していると言いたいんだろう?」
「え、ええ」
米国が先導し、このプロジェクトを開始してより、すでに十年という歳月が経過していた。今年はいよいよ実際の建設工事が開始されることになっている。その大いなる夢を米国は語り、今日まで世界から莫大な資金を調達してきたのだ。その中でも中国は、巨大なスポンサーの一つであった。
「いいか、ティオセノス・プロジェクトは商売ではない。各国が進んで資金を負担するのは、見返りを期待してではなく、より良い結果を出すためだ」
「はい、資金は善意によってのみ提供されなければならない。という趣意書を鵜呑みにすれば、ですが」
「趣意書はタテマエじゃない。人類にとってぎりぎりの選択が、私欲のためになされても良いだなどと考える愚か者がどこにいるんだ」
「そうですが……」
アダムズはなおも不安を隠さない。
「いいんだよアダムズ君。我々は正しいと信じることを推進するのみだ。世界の総意によって判断は行なわれ、のちに結論を下すのは、私たちの遠い子孫なのだから」
「そうですが……我々自身の要求こそ……」
過度なのではないか、という言葉をアダムズは飲み込んだ。彼の心中を察してか察せずか、ストラスバーグは書類の束に一瞥をくれると、無言で歩き去った。
気になった方、続きはこちらから 是非どうぞ!