『ティプトン』連載第13回

“私たち子孫には、一九三九年以降の科学をできる限り封印しようとしたの。ここケプラー186fに辿り着くために必要な航行やハイパースリープを安全に維持する技術以外は、一般の人間には極力触れさせないようにした。だから、私たちは自分たちの手で宇宙船を建造することも、コンピューターを作ることもできない。”

『ケプラーズ5213』より


── 13 ──


絵のようなものだと
教師は言った
動く絵のようなものだと

楽器を奏でると
音楽が生まれるように
無から作った絵を動かす機械が
その昔はあったのだと

動く絵とは何だろう
あれは、動く写真ではないのか

だが
写真ではないと教師は言った

あの空も、海も、山も
本当はどこにもないものなのだと
教師は笑った

わたしは何も想像することができず
卑屈に笑った

夢のようなものだとも言った
想像できるものは
何でも形にできたのだと

絵だけではない
触ることのできる形にさえ
できたのだと

わたしは思い出すのだ
そうやって作られた虚偽の夢で
わたしたちの目的や
生きるためのエネルギーや
愛情ですら
生み出されたのだと

わたしたちの足下は
あの丸い窓の外に広がる
永遠の虚空のほかには
何もないのだ

わたしたちは
本当に飛んでいるのか

その星は
本当にわたしたちを
待っているのか


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。

 

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *