Category Archives: 詩

小さな戦い

春先になるといつも
伸び始めたヤブガラシのツルを見て思う

今のうちにすっかり始末すれば
来年は少し楽になるのではないかと

初夏になるといつも
じゃんじゃん葉を増やしている姿を横目に

さあ、そろそろ始めなくては、
と思う

夏の盛りが訪れると
小さな丸い蕾の連なりを見て
淡いオレンジ色の塊に
マメコガネが群がっているのを見て

今のうちにやらなくては、
と思う

夏が過ぎると
さあ、もう外での作業もキツくないぞ
と思う

と思う間に、
日々は飛んで過ぎてゆく

秋が深まり
青い空が高さを増している

今年はとうとう
実をつけさせてしまった

茶色がかった緑の実が
無数の実が
つやつやと
勝利のメロディを奏でている

このままでは種が落ち
来年は深刻な悪影響が出るだろうと
頭を抱える

それでも、
そうやって私は庭を見ている

もし、
このままでいたとしたら、
来年は
目の前がヤブガラシで満たされてしまうのだろうか

心の中で私は
頭を抱えるポーズを取ってみる

いや、
それはあるまい

私は自分に答えてみる

誰も手を入れることのない荒地も
ヤブガラシだけで満ち溢れていることはない

さまざまな植物がせめぎ合って

我が土地を
我が陽射しを

勝ち取ろうとしている

私はただ敗残者として

彼らの小さな戦いを
見つめているだけなのだ

 


戦いの勝者は誰?
『奇想短編集 そののちの世界 4 フローラ』
答えはここに?

それは詩じゃない?

“こんなん詩じゃないだろ”

そう
思われている

そう
言われている

あるとき、
高名な詩人の朱入り原稿を見た

ほとんどの言葉を
幾度となく書き直してあった

それがほんとうに
心の奥底から
浸み出してきたものであるなら

そうまでして
言葉を選びなおす必要が
どこに存在するのか

そうやって
紡ぎ直した言葉の
どこに心が存在するのか

私には自信がない

技術を凝らせば
もっと整った
もっと見栄えのいい
もっと文学的に感じる文章に

きっと
練り上げることができるだろう

もっと簡潔に
もっと美しく
もっと読者を悩ませる文章に

きっと
練り上げることができるだろう

私には
それはできない

それが
私だ

ハピネス

辿り着いた場所に
救いがなかったように
上目遣いに何を探し求め続けたとて
見下ろす視線の主は
何も与えてはくれない

通り過ぎた日々よ
留まり悩まぬ友よ
今も 夢を 夢を

歩み止めた その場所から
見渡す四方に見える
見慣れ過ぎたもの
心騒がすこともなく
目を閉じて繋がる
手の届く幸せだけを

忘れ去った友よ
捨て去られた日々の
中に 何を 見てる

あの夢 この夢

あの夢 この夢

追い出そうとしてもなお
あの夢 この夢

つかのまに 通り過ぎた
七色の眩しい光

壊れそうな 儚い笑顔
あの夢 この夢

朝の空に溶けてゆく
朧なかたち 崩れる

すべては夢だよ
生きている今でさえも

瞬きのうちに
思い出すらも薄れて

目に映るものと
心に残せる僅かな

ふらふら ゆらゆら
夢うつつ 混ざりゆく

はるかかなた
取り戻したいとも 思いつけない ほど

おいてけぼりの小さな
あの夢 この夢

谷と山

欲望の谷に底はなく
一日は限りなく短い
欲望の山に頂きはなく
人生は限りなく短い

若者よ
私がお前の明日の姿だ
慄くがよい

夢は果たされず
髪は抜け
いたずらに皺を刻むのだ

私の脳に刻まれた道に
お前を涙ぐませる深みはない

輝きを失いゆく皮膚も
衰え続ける視力も
それと引き換えに得たものなど
あるものかと

ただ不満げに
低い唸りをあげ続けるのだ

お前の傍らで笑みを見せる
甘い夢は
決して手を差し伸べたりなど
しないのだ

いついつまでも

あなたの声が
うつむく姿が
ふるえる涙が
いついつまでも

あなたに貰った
数え切れぬもの
形をうしない
色褪せていても

その匂いは
心の何処かに
取り戻すことも
二度と再びもうない
けっしてもうない

忘れてはいけない
いついつまでも
なくしてはいけない
いついつまでも

小さな声で

ただ 気になってた ただ 気になってた
耳の奥側に 爪をかけるように

小さな声で 小さな仕草で
不安の種を 追い出そうとして

少しずれたリズムで 斜めの視線で
遠ざかるもの 追いかけぬよう

灯りを点けぬまま 耳を澄ましている
誰かのつぶやきが フツフツと浮かんでくる

身体を震わせて 怒りを溜め込んで
立ち上がることなく 目を塞いだまま

小さな 小さな
小さな声で

インディゴ

遥か高く高く泳げば
空というものがあるらしい
もっと高く高く泳げば
星というものもあるらしい
どこまでも広がるインディゴの
この世界とは違う何かが

思い切り腕を伸ばし 黒い水をかいてみる
吸う息が薄くなる 目を開けていられない
明日にしよう 今日はもう
これ以上泳げない
他の誰か昇って行く
消えて行く 二度と戻らない

まだ誰も知らない何かが
どこかにあると言う人がいて
日々の美しい暮らしには
ないものがもっとあるらしい
心と体とそのほかに
何があるのか 何が欲しいのか

手に入れたものだけじゃ 足りないと掘り続け
目の前が曇っても もっと深く探してる
何のために 誰のために
いらないものを求めている
インディゴの海 それ以上は
なんにも いらないのに

この道をどこまでも辿れば
素晴らしい街に着けるらしい
この夢をいつまでも見ていれば
美しい未来に会えるらしい

その嘘をいつまで信じれば
その嘘にいつまで目をつぶれば

その嘘をいつまで信じれば
その嘘にいつまで目をつぶれば

進歩とは?
文明とは?
経済とは?
幸福とは?

何のために 人は
行きづらい 世を作る
何のために 人は
人を恨む 世を作る

謝り続けた日

謝り続けた日
言い訳の言葉も尽き

あらゆる詫びのバリエーションが出尽くしても

まだ、

謝り続けなければならない日

声が震え
憐れみを誘う目で

終わりに引きずり込まれないためだけに
全人生をかけて

謝り続けた日

責任の所在など
解決の糸口など

どこにも転がってなどいない

ただ、

それを全身で受け止めること以外

何もできない日

五つの花

雲深き頂きに
望みありと人の云う

碧き峯仰ぎ見て
我ちから届かんと人の云う

枯れぬ ように
支え合う 五つの花

儚く脆き 珠を抱いて
崩さぬように

風のまにまに
雪のまにまに
霞む遥かに
あえかな揺らめき

罪深き頂きに
救いありと人の云う

みどりごの手を包み
明日の在り処教えよと
人の云う