『ティプトン』連載第12回

“老人は、その目で見たことのない地球や、決して辿り着くことのないケプラー186fの姿をそこに感じながら、最期の時を迎えるのだ。”

『ケプラーズ5213』より


── 12 ──


わたしは一度だけ
見たことがある
まだ
学生の頃だった
まだ
振り分けられてはいなかった

青い星という形容は
まさに地球のためにこそ
存在するのだと知った

海だ
圧倒的な海だ

山だ
とてつもない山だ

空だ
終わりのない空だ

わたしたちの周りを包む空のように
漆黒ではない
青い
空だ

海も
空も
視界には収まりきらないのだ

想像できるかい?

本当に
この世にはそんなに大きいものが
あるのだと

しかし言った
教師が言った

この映像は
本物の地球ではないと

わたしには
その言葉の意味は解らなかった

教師は得意顔で続けた

地球を撮影した映像は
この世に存在しないのだと

わたしは目の前の映像から目を背け
ただ
途方に暮れた

わたしは
何を信じればいいのだ


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。

 

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