『ティプトン』連載第11回

“ティオセノス号に裁判所はない。コントロール・センターとその直下に位置する警察組織がすべての管理権限を掌握し、管轄の教師とその管理下にある学校の生徒たちを管理している。”

『ケプラーズ5213』より


── 11 ──


あの少女は知っていたのだ

わたしが
嘘の城に隠れ住んでいることを

あの少女は束の間
わたしに見せてくれようとしたのだ

わたしの築き上げた檻は
簡単に抜け出すことができる程度の
やわな造りなのだと

あの少女は束の間
わたしに見せてくれようとしたのだ

漆黒の中にこそ
光が生まれることを

わたしは恥じる

絶望とは
わたしのような者のために用意された
浅はかな言葉ではないのだ

この船は
希望を生むためだけに
あの少女を産んでくれたのだ

少年の選んだ
あの少女こそが
わたしたちの漆黒の中に産み落とされた
新しい光の粒なのだ

あの少女こそが


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。

晩年の詩人ティプトンは、SF作品『ケプラーズ5213』にちょっとした脇役として登場しています。本当にちょっとした脇役ですが、案外存在感があって、作者のお気に入りキャラクターなのです……

地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。

 

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