このシリーズも三回目を迎えました。項目立ても7つめとなります。さ、いよいよ少しずつ核心に迫っていきましょう。
今回のお題は【コンテンツ】。
7.入手性
《電子書籍》
・欲しいと思った本はすぐに読書端末から購入、読み始められる
→電子版がなければ、そもそも入手不可。待ってもだめ
→Amazonには電子化リクエストのボタンがあるが、これは「出版社に伝える」だけ。当然、電子化に向けた進捗も分からないし、どれだけの意味があるのかユーザーには全く見えない
→書店で欲しいと思った本の電子版があるとは限らない
→読書できる端末を持ち歩いていなければ、お金を持っていても買えない、読めない
・一旦電子化されれば、廃刊になることはほぼない。と思われる。
→データを提供しているプラットフォーム自体がなくなれば、そこに依存する全書籍は購入不可能に
《5/22 追記:
日本独立作家同盟の鷹野陵さんから、ご指摘が入りました。
鷹野さん、どうもありがとうございます!
商業出版の厳しさを垣間見た思いです。
具体的にどんなケースがあるのか教えてもらわなきゃ!》
・データのコピーは困難
→DRM保護のデータは言うまでもなく、保護されていないデータでも独自形式になっていることが多く、簡単にはコピーできない
→著作権のあるデータはコピーされないことが前提なので、デメリットにはならない
→形式、プラットフォームによるが、(法律で許容される)引用の難しいケースも
《紙本》
・書店にあれば、すぐに買える
→営業時間に、欲しい本の在庫がある書店に行ければ……
→携帯端末を何も持っていなくても、お金さえあれば買って読める
・行きつけの本屋さんを作れば、取り置き、取り寄せも融通がきく
→支払いの自由度もありますね。月末にまとめて払ったり
→新刊が出たことを知らなくても、好みの作家さんを覚えていてくれる本屋さんもあったり!
→カバーとか、キャンペーンのプレミアムなどのおまけを付けてくれることも
→雑談相手にもなったり!
・WEB上の書店で購入すれば、概ね翌日に配達される。コンビニや駅でも受け取れる
→Amazon Primeのように即日配達の仕組みもある
・電子化を待たなくても発売日に入手できる
・いずれ廃刊になる可能性が高い
→廃刊になっても書店に在庫があれば買える
→中古市場が成熟しているため、廃刊本でも手に入れられる可能性はある
(ただし、古本で価値のあるもの)
・図書館にある
→なければ購入リクエストも出せる
→高価な本も無料で読める
・コピーするという入手方法もある
→読みたいところだけ、コピーを取っておける
(図書館、友達、など:法律で許容される利用範囲にとどめましょう)
うむ。電子書籍が圧倒的に有利かと思って書き始めましたが、意外にそうでもないですね。功罪取り混ぜて、一刀両断には出来ない複雑さがありますし。
8-a.品質(ものとして)
《電子書籍》
・製本や製造に起因する乱丁、落丁はない
→制作者のミスは論外として!
→論外でも、制作者のミスに起因する乱丁、落丁を防ぐシステムはない。読者からの指摘を待つのみ
・他人の手垢が付いていたり、立ち読みにより傷むことがない
→ずっと読んでいても、自分要因の劣化もない。データは常に新品同様
・ディスプレイのドット抜けがあると読書体験を阻害
→それほどのドット抜けがあるという話は聞いたことがありませんが
(あ、これはHWですね、コンテンツではなかった……)
・どんなに長い本でも1台の端末に収まるし、端末の重さも変わらない
→当たり前だ
→辞書も内蔵されていたりするし!
《紙本》
・時に乱丁、落丁がある
→逆に希少本として価値が出ることも
・お菓子をこぼしたりして一旦汚れると、きれいな姿には戻らない
→図書館で借りた本にはありますね
→一方で、自分で汚した場所は、そこに思い出が宿りますね
・長い本ほど重くなる、大きくなる、字が小さくなる、冊数が増える
→700ページ超のハードカバーを持ち歩くのは大変!
→大辞典系も持ち歩きは無理!
好き嫌いもありますが、若干電子書籍が有利?
8-b.品質(中身)
《電子書籍》
・まさに玉石混交。商業作家とセルフ作家の作品が並列で
→商業作家と変わらないクオリティの小説がある一方で、小学生の作文レベルのものも置かれている
→最低限の審査システムがあった方が良いのではないか、との声も
(ex.KDPやKWLの担当者が、必ず1ページだけ読んで確認するとか……?)
・紙で出版できない長さのものもじゃんじゃん発行できる
→数十ページ程度の掌編小説でも1冊として出版できる
(前項と似てますが……)
・内容に対する審査が存在しないため、どんな内容の本でも出版可能(?)
→差別表現、著作権の侵害なども基本的にノーチェック?
→暴力や性描写の激しいものが(米国で)出版停止になったという話は聞いたことがありますが
(これは、表紙や紹介文から「危ないな」と思われたものを運営サイドがチェックしているのでしょうか?)
《5/22 追記:
こちらにもご指摘いただきました。
鷹野さん、ありがとうございます!
その通りでした。楽天で出版するとき、あとがきや著書紹介にAmazonへのリンクが貼ってあると、出版されないことがあるようですね(iBooksや他のストアは未経験なので分からないのですが)→この追記を書いた後に上に貼った鷹野さんの別のツイートに気付きました……。
僕の『孤独の王 分冊版』では、楽天とAmazonで発売中という表記にして、双方ともリンクを入れました。この場合は、問題なく出版されました。出版したい全プラットフォームへのリンクを並列で入れるのはどうなんでしょうか?
でもきっと、アップルの審査は通らないのだろうけど……》
・内容のメンテナンスが可能
→出版社が発売する電子書籍の場合は、やはりデータ修正〜出版に至るコストが無視できないほど大きいため、めったなことでは修正版が出ることはない
→個人が発売するものの場合は、間違いに気が付けばすぐに修正し再出版可能。内容のアップデートも可能。
(ここに大きな可能性がある!)
《紙本》
・書店売りの本は出版社の厳しい目を通して売り出される商品
(もちろん、自費出版本は除く)
→だからといって、どんな作品でも面白いとは限らない
→著名作家でもとんでもなく酷い本がある
(それでも売れてしまうのか!)
・有名作家のものは多大なコストを掛けて出版・宣伝を行なうため、優良誤認がはびこる
(そのコストを回収しなければならないので)
→売ってしまえばつまらなくても勝ち、という価値観が売る側にあるのか?
→これはどんな商品にでも当てはまることですが、ね
・差別表現、著作権侵害など、倫理的に許されないものは基本的に出版されない
→出版社側が意図して行なう場合もある
・内容のメンテナンスは困難
→「改訂○版」が出るのは、よほど売れている本で修正が必要になったか、内容が社会的に(会社的に)まずかったものに限られそう
さあ、どうでしょう?
これは皆さんが考えてみてください、ね。
すっかり長くなってしまいました。まだまだ話題は尽きませんが、今回のメリデメ合戦はこの程度にして、ちょっと考えをまとめてみます。
「これまでの記事とあんまり関係ないじゃん」というリアクションが聞こえてきそうですが、気にしないことにします。
あくまでもセルフ作家視点でのお話ですが、電子書籍を盛り上げたいのは出版社さんとも変わらないかな、という思いで、以下のまとめを書いてみましたよ。
そうでもないかな……。
?
【中間結論】
電子書籍は玉石混交。特にセルフ作品は「所詮素人の書いたもんでしょ」と思う人が多いのも事実。せっかくクオリティの高い本があっても、そこに消費者を注目させるのは本人の自助努力に委ねられています。
また、内容が素晴らしくても誤字脱字が多ければ、その素晴らしさもレベルダウンが必至。商業小説が遵守している“日本語の書き表し方の一般ルール”すら知らないで書かれている小説も多いでしょうし、「そんなもの不要だ。小説はもっと自由なんだ」との主張を頑なに守っているセルフ作家もいます。確かに言葉は生きていますし、時代につれてどんどん変化しています。でも、同時代を生きる読者に、無名作家が作品を問うのですから、まずは同じ基礎(地面)の上に立っていなければならないのではないかと僕は思います。
電子書籍全体のイメージアップのためにも、セルフ作品の品質の底上げが必要ではないかと思いますし、内容の推敲までは作家に任せるとしても、校正のレベルでは他者の目が欲しいものですね。
僕が思っている解決法の一つは、セルフ作家同士が発売直後に(理想的には発売前に)相互に作品を読んで、校正をし合うものです。それが運営側からシステムとして提供されるのが本当の姿ではないかと思うのですが……。出版社が校正マンを雇う経費を考えれば、遥かに小さな費用で構築できるのではないでしょうか?
実際に作業をするのは作家同士、運営側はシステムを提供するだけです。
電子書籍は作家に入る印税率が大きいことで注目されますが、運営側に入る印税も決して小さな割合ではありません。多くの世界で、原価は売価の3割程度と言われます。製造から販売までの経路が3段階あれば、各工程の原価は売価の1割程度でしょうか。
例えばAmazonKDPでは売価によって3割〜6割5分を運営側が得ているわけです。つまり、自ら製品を製造しているメーカーと同じ以上、または通常の販売店の売り上げを上回る利益率です。(必要経費はきっと小さいのでしょう……)
商品開発・積極的営業も不要で、作家自らどんどん作品を販売棚にのせてくれますしね。
そこで、サイト上にセルフ作家だけがアクセスできる発売前の書棚領域を確保し、そこから各人の端末にDLして校正するというのはどうでしょう。アクセスの履歴を残し、作家同士が自発的にやり取りして校正し合えば、運営側の負荷は僅かなものになりますよね?
技術的にはあまり具体的なアイデアではありませんが、現在のシステムを少しだけ拡張すれば、充分構築可能なのではないかと思います。(米国Amazonでは何だかそれに似た(?)システムがあるような、ないような……)
電子書籍について、というより、“電子書籍によるセルフ出版について”になってしまいましたね。
さて、まだ続きますよ。次回は【価格】【保存性・保管性】で火花を散らしてみましょう。
この記事が、いつか誰かの役に立ちますように!
では!
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