“ケイトは小さく呟いて、両目を見開き、音の来る方向に顔を向けた。真っ白い髪の毛をボサボサに伸ばした老人が片手でワゴンを押し、もう片方の手で器用に蓄音機のハンドルを回していた。”
『ケプラーズ5213』より
── 4 ──
船外活動の地獄は
それを経験した者にしか
分からないだろう
互いに見張り合う一対のゴテゴテしたロボットが
外壁の凹みにぶら下がるように隠れている
自己修復型のマシンが故障する時を待っている
冷たい肌をしたロボットたち
その修復ができなくなってしまうことを
避けるためだけに
彼らは存在している
絶えず互いの存在を気に掛け
異常があればすぐに
互いをいたわりあうように修理を施す
外殻に点在する恐ろしい発電設備や
大小の船が出入りするための開口部
わずかな隙間が私たちの生命を簡単に奪う
冷たい肌をしたロボットたちに
生命の感覚など解りはしない
ただ
完璧であろうとするためだけに
彼らは働いている
私には船外活動の経験はない
彼らを見たのは
小さな窓から遠くに見える
小さな小さな鉄の塊としてだけだ
彼らを間近に見た者は
生命の儚さを思わずにいられないと言う
あれが
私たちの生命を握っているのだと
私たちはみな
身震いをせずにはいられないのだ
本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。
地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。