詩/こぶし

季節モノは難しいですね。書いた時にはリアルタイムでも、公開するタイミングが何日か遅れただけで、もう季節外れになってしまうんだもの……。
と、いうことで、もう「春の訪れ」の情景としては微妙に過ぎ去ったものになってしまったようにも思いますが──


黄色や白や桜色
薄紫やクリームの色

春だ春だと
声を大にしているさなか

大きくて厚い花びらが
白くてくたびれた花びらが

はらはらと
さようならを告げている

誰よりも彼よりも真っ先に
春の訪れを告げてくれた

その同じ場所に
醜く太った頬紅色の芋虫が
膨らんでくる頃には

今が春だったことなんか
誰だって彼だって
もう、
覚えてなんかいやしまい

ほんとうは美味しそうな
練り切りのようにも見える
お前のその実を

醜い芋虫のようだと
かかとですり潰す
無垢な笑顔を

お前はそこでじっと
待っているのだね




淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。
乾いた心にするりと忍び込む、読みやすい詩編を多数収録しています。


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