さて、昨日の続き。
ほとんど書いていないながらも書いているお話は──?
これまで書いてきたお話は、書くごとに結構振り幅が大きかったりする。
中年女性が主人公で身の回りのことしか出てこない《暖かい家族小説》の次は、近未来のジャーナリストが主役で《世界を舞台にしたSF》。その次が《実話仕立ての古代史ファンタジー》かと思ったら、次は《遠い未来のサバイバルSF》だったり。で、前作の『光を纏う女』が初の《ちょっとエロチックな大人向けサスペンス・ホラー小説》だもんだから、その対岸にある次作はというと……?
はい。
お分かりですね。
で、今書いてるのはこんなお伽話なわけ。
タイトルは、
『フックフックのエビネルさんとトッカトッカのカニエスさん』
ね、タイトルからして子供の絵本ぽい。
せっかくだから、書き出しをちょっとだけ紹介しちゃおうかな。
こんな感じ。
フックフックの国に住んでいるエビネルさんはやせっちょで、お酒が大好き。トッカトッカの国に住んでいるカニエスさんは太っちょだけど、お酒はぜんぜん飲みません。いいえ、飲めないんです。だからなのか、やせっちょエビネルのお腹は出ていて、太っちょカニエスのお腹はぜーんぜん出ていないのです。
エビネルさんは洋服作り(テイラー)の見習いで、まいにちまいにち美しい生地にアイロンをかけて暮らしていました。お金持ちのご婦人がたと、店のご主人はいつも楽しそうにおしゃれの話をしていたけれど、お給金の少ないエビネルさんは、余った生地を上手に組み合わせて使い、自分でぬった服ばかりを着ていたのです。エビネルさんはいつもいつも、楽しそうに話すご婦人がたとご主人を見て、思っていたのです。僕もいつか自分のお店を持って、ご主人と呼ばれるようになるんだ、って。
そう、これは完全に子供向け(の顔をした)お伽話。一度書いてみたかったんだ、こういう懐かしい香りの漂うお伽話を。
例えば、『香水』のジュースキントが書いた『ゾマーさんのこと』や、フィリップ・K・ディックの『ニックとグリマング』のような、ね。
とは言え、気まぐれな僕のことだから、このまま進むかどうかも分からないのだけど。もちろん、淡波らしい毒はそこここに潜んでしまうと思うし──。
まあ、楽しみに待ってくれる人が、一人でもいてくれたらいいなって思いながら。
では!