詩/いやなやつなんて、いない

いやなやつなんて、いない

ちょっとした拍子に
いやな顔をしてしまうだけだ

いやな顔は、誰だって持っている
僕だって
君だって
君の大事なあの子だって
君のお母さんだって
君のおじいちゃんだって

それが、
君に向けられるときに
君が見ていなかっただけ
かもしれないよ
それが向けられる先に君がいなければ

それはそれで幸せなこと
かもしれないよ

だけどね、
それはひょっとしたら
幸せなことなんかじゃない
かもしれないよ

君に向けられた
あの笑顔は
ほんとうに、
君に向けられたもの
だったかい?

それともあの人は、
誰も見てやしなかった

そんなことはなかったかい?

いい人なんか、いないよ

だって、
僕がそう言うんだもの
間違いないでしょう?

でも、
いい気持ちでいたくなる
優しい気持ちでいたくなる
ただ、
にっこりと笑って
見守っていたくなる

そんなときは、
いい人でい続けることも
できそうな気がするよ

しばらくの間、だけだけどね

ずっと、
同じ人でいることなんか
できない

そうだよ、
それはきっと
誰だってできない

誰もが誰かの鏡なんだし
誰も誰かの鏡なんかじゃないんだ

いやなやつなんて、いない
いいやつなんて、いない

みんな、
君と同じくらいに
複雑なんだから、さ




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