牛野小雪さんは嘘つきだよ。
プロフィールを見てよ、書くのが牛のように遅いと言うのだから。
だってさ、待ってくださいよ。去年はしっかりした(?)長さの長編を3冊出しているし、そのうち1冊は大長編だ。今年だってつい先日新作を出したと思ったら、もう次の表紙を作っているという。
そろそろ、プロフィールに書いてある自己紹介を修正した方がいいんじゃないかと、真面目に嫉妬する自分がいる。
僕についてはたくさん出版してるイメージを持っている人もいるようだけど、そうでもない。大長編の執筆には3年掛かったし、去年から今年の年始にかけてサクサクと何冊も出せたのは、ブログの連載をまとめたり、短編だったりしたからだ。
ステディなペースで長い作品をきちんと出し続けている牛野さんと違い、僕の出版ペースはなんと気まぐれなことか。いかんいかん。
まあ、そんなことはどうでもいいとして、どんどん出る、どんどん書けるということは、ファンにとってはとっても嬉しいことだ。
(ご自分では昨年あたり、ずいぶん書けない書けないと「書いて」いたけど、いやあ、むしろコンスタントに書いてますって!)
僕は牛野小雪さんの小説のファンだ。
どんどん書けることに嫉妬はするけど、小説には嫉妬しない。
だって、そもそも僕にはああいったタイプの文学作品は書けないもの。読んで、楽しんで、じわる。単純に、ファンでいられるのだ。
彼の小説は、文学だ。
と、僕は思っている。ときどき、夏目漱石の小説を読んでいるような気がすることがある。褒めすぎだろうか?
そんな彼の初めてのセルパブ作品がSFだったということを、何かの拍子に思い出した。そういえば、未読だった。
『火星へ行こう、君の夢がそこにある』
という作品だ。ちょうどこの冬に話題になった映画との共通性もあって、気になっていた。牛野小雪さんが書くと、どんな話になるのだろう、と。
約3年前の作品だから、くだんの映画とはもちろん何の関わりもない。氏が原作を読んだ可能性も低いだろうと思う。「火星移住モノ」といえば、ジャンルの一つとも言えるだろうし。
SFといえばSFだった。
SFではないといえば、そうではなかった。
いつもの牛野文学が、そこにはあった。いまの作品につながる萌芽どころか、もう既に完成されていた。もちろん、編集が入らないことによる粗削りさは置いておく。脱字もあったし、てにをはのおかしなところや気になる重複表現もあった。だが、それが何だというのだろう(もちろん、直すべきだとは思っている)。
プロの作家が完璧な作品を上梓できるのは、作家と出版物の間にスタッフがいるからだ(もちろん、それを必要としない天才作家もいるけど、それは例外として)。そこに作品の完璧性(誤謬を追放すると言う意味での完璧性)を担保するシステムがあるからだ。セルパブ作家にはそれがない。
──もちろん、僕はある意味、そのシステムの一角を担いたいと密かに思ってはいるけどね。
今回は、「おかしいな」と思った箇所をほとんどメモらなかった。済まんです……。
でもね、それには理由がある。
夢中で読んだからだ。Kindleにハイライトを付けたりする手間も惜しかった。どんどん読みたかった。読むのを止めたくなかった。長い作品ではないといっても、一日で読み切るにはそれなりの量だ。2時間半超はかかったと思う。
その間、夢中でどきどきしながら、じわりながら、読み続けていた。中だるみも、肩透かしもなかった。
特別何も起こらないのがいい。
火星まで行っといて、私小説なのだ。取り立てて文学っぽく飾ろうともしていない。美文でもない。でも、読後感はと聞かれれば、文学作品を読んだ後の感慨と同じなのだった。これこそが牛野ワールドなのだな。
三人称で書かれているけれど、限りなく一人称に近い主人公視点の三人称。だから、主人公の知らないことは書かれていない。書かれていなくても違和感がない。SFにありがちなバックグラウンドの説明もほとんどない。火星開発公団のひとたちから聞いて鵜呑みにしたり勝手に解釈したことが書かれているだけだ。そこにまた、現実っぽさがある。
僕らは何もかも分かって生活しているわけではない。分からないことばっかりだ。
SFとしての考証はきちんとしていない部分があるだろうけど、それは主人公の頭の中で解決していればいい話として納得できる。主人公の知らない技術のこと、間違って覚えている技術のことは、それを作者が正す必要もないのだ。
ああ、こんなSFの書き方もあるんだなあと、氏独特の文章を読み終わって惚れ惚れした。
牛野小雪さんの小説には、裏切られたことがない。
今後もきっと、裏切られることはないだろう、な。
──と期待に目を輝かせて。
(プレッシャーをかけてはいませんよ)
こんばんは。
火星へ行こう〜はめったに話題に出てこないので、とても嬉しかったです。色々拙いところはあったでしょうが、近いうちに手を加えるつもりです。まずはレビューで誤字の報告があった蒲生田岬から。
それにしてもこれだけ熱い感想を貰うとちょっとプレッシャーになりますね。次書けるか心配になってきました(汗)
書く早さは私の中の基準より遅いということなのかもしれません。一日に最低4000字書きたいから、まだ半分も書けていないということになります。
可能性としては1万字も無理じゃないとは思っているんですけどね。
とってもハマってくれて、ありがとうございました。嬉しかったです。
牛野小雪より
追記;小説家は嘘をつくのが仕事ですよ、なんてね
楽しくてうまい嘘をつきまくりたいものですね!