肩透かしを食らって許せない小説と許せる小説がある。
ストーリーが解決する以上に、そこまでの旅を味わい、楽しみ、慈しむことのできるもの。
もしかすると、それを文学というのかもしれないな。
オチはない。もやもやは何も解決しない。想像に対する答えは何も与えられない。そして突然、両手で力いっぱい突き放される。
はい、ここでおしまい。
ズシリと残ってしまう。胸のざわつきが放って置かれてしまう。
作者の企みどおりにね。
それが、牛野作品の魅力であり、すごいところなんだよな。
どんなに肩透かしを食らっても、愛さずにいられない。
それが、この作品集の中の三作。
『マーモンドの花』『マリッジブルー』『妻と猫との思い出』だ。
そして短編集の最後に収められた『ベンツを燃やせ』。
これにはびっくりした。
これまで僕が知っている牛野作品にはない爽快さと明快さがある。どきどきしながら、わくわくしながら、それでもどこかで肩透かしを喰らうことを期待しながら読んでいた。
オチはきっと、計画が微妙に頓挫して、それが良いとも悪いとも描かれず、ただもんもんとして終わるのだろうなと思いながら、読んでいた。だって、タイトルがベンツを燃やせなんだから、それでベンツが燃えちゃったら、まんま過ぎるじゃん、意外さがないじゃん、と思っていた。
──ところが……、
わーっ、違った!!!
こんな爽快で豪快な──もちろん、そのまた後に牛野作品らしい余韻があるのだけれど──、牛野作品、知らなかった。最初からオチをバラしてるのにこんなに面白く読めるものが書けるなんて、やはり牛野小雪はただ者ではない……。
(燃えて終わるのは竹薮の柩とも被るけど)
いやあ、もっと読みたい。
と思いつつ、まだ積ん読に長編があったことを思い出した……。
ハイ、読みますですよ!
じゃ、また明晩!
ありがとうございます。
毛色の違う『ベンツを燃やせ』は本来入る予定はなかったのですが、ジョーカーとして一枚入れておきました。
作者としては二番目の『マリッジブルー』がエースのつもりだったのですが、あんまり琴線に触れた人が少ないようで…..どうもベンツが一番インパクトがあるようで嬉しいやら、嬉しくないやら複雑な気持ちです。やっぱり炎は人の心に直接響くんでしょうか?
なかなか書いたものは読まれたいようには読まれないものですね。でもやっぱり読んでくれたのは嬉しいです。ありがとうございました。
牛野小雪より
盛り上がるし話題にしやすくて、こりゃ上手いな、してやられたな、と感じたのは『ベンツ〜』ですが、小説として味わいのあったのは他の三作です。どれも非常に良かったです。
『アーモンド〜』は純文学の匂いがして、ずっとその世界に浸りたいような味わいでした。
『マリッジブルー』もとても好きです。自分の若い頃を思い出してしんみりしました。まあ、ミュージシャンの描き方がちょっと軽いかなあとは思いましたが(笑
『妻と〜』は怖かったですね。でも、猫の扱いに今一つリアリティが感じられなくて、結末への持っていき方に無理があるように思ってしまいました。
前にも飛び降りたことがある猫を、無理して尻尾を捕まえようとするかな? なんて。