傑作、駄作、無言、軸。

あなたの作品を見て、読んで、聴いて、味わって、
Aさんは傑作だと言う。
Bさんは駄作だと言う。
Cさんは黙っている。
Dさんは面白かったですよと言う。
ぼそりと言う。

あなたは、「やっぱりダメだったんだ」と言う。

誰の言っていることが本当か。
誰の言っていることも本当だけれど、誰の言っていることも客観的事実ではない。
では、客観的事実はどこに?
──それはどこにもない。

誰かは誰かの価値観に照らして判断しているだけで、それはあなたの価値観に照らして行われた判断とたいした違いはない。
それぞれの心が、それぞれの感じ方を持っていて、過去の自分の経験と価値観がものを言わせる。

であれば、
自信を持って、突き進め!
わたしの作品は素晴らしいのだから!
それで、いい?

いやいや、ちょっと立ち止まろう。

Aさんの主観的立場にはAさんの文化的バックグラウンドがあって、Bさんのそれも同じ。
人間の数だけ、心の数だけ、それはたくさんある。
あなたはどう?

文化的な共通項、共有観念、価値観、流行、芸術への視点。

客観的な、絶対的な評価軸はなくとも、技術を評価する軸は多々ある。
あなたがそれを受け入れなくとも、それが客観的な評価軸だと大多数の人が考える軸がある。

共通項はときに正義であり、悪であり、でも何かしらの答えを提示してくれる軸となる。
あなたがそれを受け入れないことで、あなたを突き放す軸がある。

相対的なものであるといっても、あなた自身の価値判断よりずっと客観的な軸がある。

何を知ればいいだろう?
何を考えればいいだろう?

それを考えることが、あなたの仕事だ。
もしもあなたが表現者であるなら。
あなたの表現を、誰かに評価されたいなら。
誰かというのはもちろん、自分自身も含んでのこと。
自分自身を評価するために、ぶれない軸を固めるために、柔らかで繊細な軸を持つために、ときに離れ、ときに突き抜けるほどに近づき、何を考えればいいのか考えることが、
あなたの仕事だ。


あなたは、わたし。
わたしは、あなた。


(考えることに疲れたら、ときには猫に憧れてみるのもいい)



淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。
乾いた心にするりと忍び込む、読みやすい詩編を多数収録しています。

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