Category Archives: 詩

詩/いつか

いつか、
すべてを諦めてしまう日が
来てしまうのだろうか

当たり前に
何も作らずに
何も生み出さずに

日々を過ごすだけで
満足できる日が
来てしまうのだろうか

じゃあ、お先にって
誰にも言うことができず

この世界から
抜け出すことも出来ず

結局、
ずぶずぶと沈んでいって
もう、
浮き上がろうともせず

あちこちに
溜まりに溜まった
燃えかすを

振り返ろうともせず
もう一度
燃やそうなんて欲は決して持たず

君の笑顔だけで充分だと

そう
心から信じられる日が
来るのだろうか

でも、
でももし
そうなったら、

色んな場所に行こうか
君の行きたい場所に、
一緒に行きたかった場所に

色んなことをしようか
僕のために諦めてきたことを
きみがずっと
諦めてきたことを

今度こそ
一緒にしようか

僕が勝手に描いていた未来図は
君がいてこその
ものだったんだから

詩/こわい

ほんものに出遇うのがこわい

だって
あぶり出されてしまうもの

お金持ちと過ごすのがこわい

物知りさんと過ごすのがこわい

自信満々さんと過ごすのがこわい

だって
出会ってしまうもの

なれない自分と




淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。
乾いた心にするりと忍び込む、読みやすい詩編を多数収録しています。

詩/空っぽだ

空っぽだ
とにかく空っぽだ

僕の言葉なんか
空っぽだ

何もかも
嘘っぱちだ

心なんか
どこにあるもんか

愛なんか知らない
お前なんか知らない

言葉なんか
作り物のうわ言さ

空っぽの僕を
振ってごらんよ

何の音もしないから
何の色も混ざりやしないから

見栄っ張りさ
欲得ずくめさ
汚らしい嘘つきさ!

だから

僕をひっくり返してみな

宇宙が出てくるんだからね!

空っぽだからこそ
何でも入れられるんだ

そこからは絶対、
宇宙が出てくるんだからね!

それが
空っぽであることの
唯一の美点

なんだぜ!

詩/おもひで

憶えている
赤い丘の上で
追いかけてた
忘れかけたもの

憶えている
金に染まってた
雲の向こう
確かに見えた

声をかけることも叶わず
思いを重ね

俯いた横顔に
思いはかすれ

憶えている
赤い丘の上で
追いかけてた
忘れかけたもの

憶えている
金に染まってた
雲の向こう
確かに見えた




淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。
乾いた心にするりと忍び込む、読みやすい詩編を多数収録しています。

詩/冬の芽がほら

あなたは知っているだろうか
あの枝の
あのあたりに

ぎゅっと縮こまって
寒さに耐えている
冬の芽がもう

すっかり並んでいることを

小鳥たちの餌にならぬよう
硬く硬く
身を縮こまらせて
まるで棘のように

あたりをうかがっていることを

今日みたいに
急に暖かくなった日だって

だめだよ
膨らんじゃだめだよ
柔らかくなっちゃだめだよ

そうやって
まわりに言いながら

冬の芽たちは

お日様から
顔を背けようとして

暖かいのに
ぎゅっと縮こまって
冬が行ってしまうまで

じっとじっと
お行儀良くして

待っているんだよ




淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。
乾いた心にするりと忍び込む、読みやすい詩編を多数収録しています。

最新作2連発!!

あ、煽りました。
最新作といっても小説ではありません。

一つはこれ。

スクリーンショット 2016-02-09 23.11.50

短編と掌編二作で参加させていただいた別冊SF群雛のプロモビデオです。元はと言えば、王木亡一朗さんの詩に曲を付けさせていただいた『欠伸なんかして』を作っている時に、何となく曲を付けたのが始まり。
ノリで歌詞を書いて、日曜日の朝にふと映像も付けちゃえと思いついて2〜3時間で仕上げました。歌録りは映像を作ってから夕方に、という突貫作業でした。


歌詞はこんな感じですよ〜。


Quails, quails go writing stories
Quails, quails go reading masterpieces
Quails, quails go writing plots and dialogues
Quails, quails
Quails, quails


 (一応、応援歌になってるつもり!)

で、上述の『欠伸なんかして』も同日の録音。
これはもう、詩を読んだ瞬間にサビのメロディーが浮かんでしまったので、王木さんに頼んで曲を作らせていただいた、という感じです。作っていてとても楽しかったですし、《詩に寄り添う》という経験が新鮮でした。
英語の詞に曲を付けたり、曲を先に作ったりすると、基本的になるべく字余りにならないようにするんですが、これはもう全然曲にすることを想定していない詩(当然!)。場所ごとに結構字余りや字足らずが出てしまい、最初はどうやっても二番以降が歌えず、苦労しました。

結局、無理やり詩をメロディーに当てはめるのは止め、場所ごとに少しずつメロディーを変えて洋楽っぽい作りにすることで、全体がまとまりました。
メロディーをそれぞれ変えることで言葉の持つイメージを大事にできて、むしろ面白かったなあ、と思います。

しかしまあ、こんなにも違うもんですかね、同じ日に同じ人間がやって(笑)。

Sound Cloud上の僕のページに載せています
Sound Cloud上の僕のページに載せています

お耳汚しにて失礼──
 では、また明晩!



詩/六角のゆめ

あの、
幾何学で生み出された
宝石のような結晶が

わたしの手のひらだけで
いく千も
いく万も
きらりきらと
重なり合っているのだ

頭上を舞う
ひとつひとつに
名前を付けることは
叶わぬ数の

たとえどんなに冷たかろうと
もしわたしがここに
顕微鏡を持っていたのなら

幼いこどものような
夢中の眼差しで

きっと
次々に
その宝石を

プレパラートに
そっと挟み込み

目の周りに
赤い丸印ができるまで

ずっと
のぞき込みつづけて
いたいのだ

そして
道ばたの半端な怪物のように
崩れて穴だらけになった
塊の奥にすらも

きっと
ひそやかに
隠れているだろう
あの六角のゆめを

そっと
捜し求めたいのだ




淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。
乾いた心にするりと忍び込む、読みやすい詩編を多数収録しています。

詩/種たちは

道端で
敷石の隙間に引っかかって

あれ?
という顔で
ぼくを見上げていた

どこか遠くの空から
漂って
落ちてきた

うねる風に
バランスの悪い踊りを
させられながら
ぼくの目の前を
通り過ぎようとしていた

ぼくは
そんな種たちを
エイヤッと捕まえて

引き出しの奥に
そおっとしまう

ときおり
引き出しを開けて
そろりとのぞき込むぼくを

種たちは
じっと見ている

種たちは
寄りかたまって
ざわざわと
震えている

手に取ってくれるかしらと
期待の顔で

まだだよ

ぼくは苦笑いして
そっと
引き出しを閉じる

もう少しだよと
無言で告げながら

種たちの頭のてっぺんが
はち切れんばかりに
膨らんでくるときを

じっとじっと
待っている

期待の顔で

詩(これは散文だな)/思い込みでいい


詩を書いているとき

自分が、
詩人になったような気がする
ことが、

たまあに、
ある

小説なんかを書いているとき

もう、
自分がいっぱしの小説家先生に
なったような気がする
ことが、

ときどき、
ある

とっきどき、
だよ

でも
書き終わったとき
そんな気持ちは
どこか見えないところに

ぜーんぶ
逃げていってしまうよ

たまに、
絵を描いているときは

ただ、
無心に描いている

絵描きになったような気は
したことがない

歌なんか歌ってるときは、
ただ、
一生懸命、
上手に歌わなくっちゃと、
何かに追われている

でも、
楽しまなくっちゃね、
好きなんだからって、
自分に言い聞かせてみたり

冷静に、
ここをこうやって直さなきゃって、
思ったりする

それでも、
好きで好きでしかたがなくて、
下手くそで泣きそうになっても、
やめることだけはできない

それでも、
いいよね?

怖いものを知ってると
自分の姿がよく見えてしまうんだ

見えないほうが
知らないほうが
らくちんなことだって多い

周りが見えないだけで、
そう思うだけで、

それでもいいと
思うことがあっても

それではだめだと
思うことがあっても

ときには

それでもいいと
思うことにしよう

──ね?


淡波ログに掲載した作品を中心に書き下ろし作品を加えた初の詩集『猫になりたい』。

乾いた心にするりと忍び込む、読みやすい詩編を多数収録しています。

風に叫ぶ

背を凹ませ
肩に食い込む荷物は、
思いのほか
俺という存在を意識させる

手がかりなき
崖をよじ登るいま

額に降りかかる小石に
眼を開けることも叶わず

爪は割れ
半月に血がにじむ

こうべを垂れて見下ろせば
闇は、
限りなく広がっている

冷たい霧が
足下から押し寄せる

早く行けと、
俺を急かすのだ

ようやく辿り着いた場所は、
ほんのひと息つくことさえ許さない

内も外も闇に満たされ、
眼が開いているのかさえ
もう
分からないのだ

だが、
俺を拒むガラスの壁が
どこまでも続く絶壁の
冷たい光が

俺に告げる

お前は
眼を開けているが
何も
見てはいないのだと

俺は、
またしても登ることを拒まれ

ただ、
この開いているかどうかも判らない眼で
ガラスの壁を見つめる

壁は、
醜く痩せこけて
哀れに口角を下げる
己の姿を映すのみだ

遥か、
頭上を仰ぎ見る俺の閉じた眼は
青白い光に激しく痛む

俺が属してはいない何かが、
そこにある

決して
属することのできない何かが、
そこにはある

そこで誰かが
俺をあざ笑っているのだろう

横殴りに吹き付ける冷風が
俺のちっぽけな意識を奪おうと
ちっぽけな正気すら
奪おうとするのだ

固く閉じたまぶたに挟まれた
憐れな溝に
砂混じりの涙が滲む

それでも俺は
叫び続けるのだ

それでも俺は
登り続けるのだ
ほんの1センチすら進んでいないのに

忘れられない痛みを
忘れようともがきながら

俺は
叫び続けるのだ

この凍てつく風の中で