変な名前の効用

ある小説を読んでいて、突然、腑に落ちたんだ。腹に、ストンとね。

何のことかと言うと、小説に出てくる登場人物の名前。
メジャー、インディーズを問わず、小説には変な名前の登場人物が多い。僕は今までそういう名前に違和感を持っていた。
「どうしてこんな変な名前なの? 作者、ふざけてんのかなぁ」
「ちゃんとした名前くらい考えてよ」
「これ、コメディーなん?」
などど思っていた。

でも、ある時、いきなり理解したのだ。
(おせーよ、の声が聴こえる……)

「これ、読者がめっちゃ覚えやすいじゃん。登場人物の書き分けがスムーズじゃん」って。
僕が普段付けている普通の名前だと、同時に同性が三人以上登場したりするともう、カオスだ。
(あ、もちろんそれは力不足という根本的な問題もあるけど、ね)

《痩せてるのが鈴木、太ってるのが山田、意地悪そうなのが佐藤》なんて付けた日にゃあ、次に登場したシーンでは誰が誰だか分からなくなってしまう。よほどきちんと(しつこく)描写でもしておいて強い印象を残さないと、読者がついて来られないよね。

名前が変だと、描写されているイメージが強力に補完される。頭にこびりつく。
「臑噛竹子(すねかじり・たけこ)は、実はすごい美人なんだ」
「臑噛さんっ!」
なんて書いてあればもう、このヒロインのことを忘れることはないだろう。

「佐藤美和は、実はすごい美人なんだ」
と書いた後で、
田中陽子と鈴木芳美なんて出てきたら、
「あれ? 美人って書いてあったのは誰だっけ?」
ともなりかねない。

『吾輩は猫である』の苦沙弥先生なんていうのも、相当に変だよね。でも、それでパッと記憶に残る。ヤマアラシ、赤シャツ、なんかもそうだ。敢えてあだ名にすることで、人物の輪郭が際立つ。
いっぺんに厚みまで出せてしまうことすらある(かも?)。

まあ、《現実感がある》というのは大事なポイントなんだけど、特徴のある面白い名前ってのも、今後は考えていきたいよな。とじんわりした、最近の読書体験なのだった。

あ、もちろん、臑噛竹子は出しませんよ!

では、また明晩ッ!

この記事が、いつか誰かの役に立ちますように──!

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