『ティプトン』連載を終えて

先週で連載を無事終えることの出来たSF叙事詩『ティプトン』ですが、当初から読者さんがいるかどうかまったく分からない中でのスタートでした。
『ケプラーズ5213』のサイドストーリーとはいえ、登場シーンも少なく、ほんの脇役をメインにしたこの作品。
しかも詩です、叙事詩。でも、ストーリーらしきものもありません!
連載を始める前から、これは誰も読む人がいないんじゃないか……と考えながら書いていました。

いえ、書いたのは巨大宇宙船ティオセノス号の引退した老人ティプトン・スティーブンス。それを彼の死後、コントロール・センターが編纂して1冊の本にまとめたものです。
それを訳したのが僕。

誰も読まないかも、と思っていましたが、幸い何度かツイートをリツイートしていただいたりしました。感想はまだありませんが……。

一言でいえば、こんな内容です。

はっきりと真実を知らされていない末端の乗組員が詩人の想像力という力を得て、宇宙船の存在意義や目的に疑問を持つことで、あらゆる事象に関して思考の環を広げてゆきます。

いつ、目的地に着けるのかは分からない。もちろん、間違いなく自分は生きてあの星(ケプラー186f)を見ることができない。宇宙を航行しているとは言っても、船外に出ることはない。本当にここが宇宙なのか、本当にティオセノス号は飛んでいるのか、それすらも確信を持つことが出来ない自分。
生まれ育った巨大宇宙船内の環境以外は何も見たことがなく、昔の映像で見た地球という星がフィクションでないかどうかも確かめるすべはない。
自分の存在すらあやふやで、ただ、暗い廊下で銀のレコードを回しながら音楽を流して歩くだけの余生。

そんな詩人ティプトンの感性が、身の回りの全てに対して疑問を持ち、思いを巡らせ、数々の短い作品を残しました。

翻って、現代社会の持つ様々な矛盾や問題点を凝縮して持っているのが、このティオセノス号という閉鎖世界だったのですね。


さて、連載内容に加筆・修正しながらワープロ上で一つにまとめ、表紙を作成しました。
まだもう少し、推敲が必要です。

表紙はもちろん、ティオセノス号です。『ケプラーズ5213』のPVに登場していますし、『そののちの世界』の表紙にも使われています。ケプラーズの世界にもっと広がりを出せるといいな、という思いと、どちらかが既読の読者さんの目に留まればいいな、という思いが半々です。
冒頭のアイキャッチ画像とそっくりですが、違う絵です。ぐるぐる回転しながら飛んでいるアニメーションの、違うフレームを使ってレンダリングした画像ですね。CG、便利です!

もしかしたら、もう少し手を入れるかもしれませんが
もしかしたら、もう少し手を入れるかもしれませんが


そうそう、タイトルは『希望の夜、絶望の朝』に改題しました。
もともと、連載時にもこのタイトルでコントロール・センターに蔵書していた本という書きかたをしていましたし、それがいちばん自然なかたちかな、と。


最後に、名前について。

通常、ティプトンというと名字なんですよね。
この方の場合は名前がティプトンです。名字はスティーブンス。スティーブンスといえば、「ス」を取れば名前になりますね。

人種も国籍もない世界。親も知らず、自分の名前の由来も分からない。名前と名字の順番も完全にごっちゃになった世界ですから、彼の名前もそんな混沌を表わしていたりするのです……よ。


では、今晩はこれまで。

また、発売日が決まったら告知しますね!

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