『ティプトン』連載第2回

“廊下を滑る手押しワゴンのキャスターが控え目にゴロゴロと立てる音に混じって、キイキイと何かを回す音と、か細くも円やかなクラリネットの音色が、周囲の壁に響きながら少しずつ大きくなっていた。
「これが、祝祭の音楽?」”

『ケプラーズ5213』より


── 2 ──


疑わぬようにと、教えられた。

いや、
疑いを持つことなど、
想像もできぬように、
導かれた。

私たちの知識は全て
十箇所の図書館と
選び抜かれた教師たちから
与えられたものだ

与えられたものだ

考えることは、不要だった

与えられたものだ !

私たちはただ、前に進むために
事実、
物理的に前へ進むためだけに、存在している

存在させられている

存在を
許されている

美しい少年や少女たちよ、
きみたちは違うのだろう?

あの大地に降り立つために、
きみたちは《新しい知識》を注ぎ込まれているのだろう?

私たちは何のために生まれたのか
世代を引き継ぐために
船を前に進めるために

美しい少年や少女たちよ、
きみたちは本当に信じているのか?

私たちと同じ未来が待っているかもしれないと、
心をよぎることはないのか?

私たちが信じたように
信じているのか?
きみたちは、
自らの輝かしい未来を

それとも?


本連載は、原則として毎週木曜日に掲載します。


地球を旅立って三千年後、人類は尊い犠牲を払いながらも、計画通りに492光年彼方の惑星ケプラー186fに到着した。
人類は惑星の各地に入植キャビンを送り込み、水と緑に溢れた美しい新天地に入植地を築きつつあった。
だが、人類の生息環境として申し分ないその惑星に、先住生物が存在しないはずはなかった。


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