センスと技術

「グラフィックデザイナーはなぜミリ単位にこだわるのか?」

こんな質問に対して「なぜも何もない。当たり前のこと」と考えるようになるあたりが、センスを発揮できるための技術のベースラインではないかと思うのです。

いきなり偉そうなことを、とお思いでしょうか?

僕自身、偉そうなことをのたまえるような素晴らしいセンスの持ち主ではありませんし、本職のグラフィックデザイナーでもありません。それはもう、作ったものを見ればわかることなので深くは追いませんが。

でも、デザインを学び、多少は仕事にも生かしながら日々を送っていると、わかってくることがあります。

本当にセンスの良い人は道具を選ばない。でも、技術は仕上がりを左右する。そして道具もやっぱり仕上がりを左右する。
それは、時間の問題でもあるし、自分のこだわりにどこでケリをつけるかというポイントの幅や位置(ポイント=点だけど、その中には大きな揺れ幅がある)が、技術とツールによって簡単に影響されてしまうことがあります。

ひとことで言うと、技術があってツールを使いこなせれば、試行錯誤に掛かる時間が削減できるということ。そうすると、自分の施したデザインに対して完成度を追求する時間の余裕が生まれたりする。その完成度は、手作業でやっていた頃より高いような気もするし、逆に甘くなったような気もします。

最終的な判断をする局面では厳しくなったのかな? 最初のデザインを上げる段階では甘くなったのかな?

極端に言えば、僕が学生の頃はパソコンもなかったし、デザインの全ては手作業でした。
クロッキー帳に鉛筆で何度も何度もアイデアスケッチを描いて、少しずつ理想形を探してゆく作業をどこまで詰められるかが、凡人の僕らに与えられたテーマであり宿命でした。そして、「これだ」と思ってから色を入れる。その時にはもう迷いはなくなっていて、ひたすら筆を動かし続ける。

今は、違います。

いきなり色面を置ける。完璧に真っ直ぐな線で構成された色面を自由自在に変形出来るし、アイデアを瞬時に画面上に落とせます。アイデアがなくたって、何となく画面を埋めることもかんたんです。バランスが悪ければいくらでも調整が効くし、それこそ紙上で行なう作業の何百倍も効率的にデザインを詰められます。

ただそこで勘違いしたくないのは、ツールが描きだしてくれた完璧な図形は完璧なデザインではないということ。

ぱっと見の完成された雰囲気に騙されてはいけないのです。

正解はいくつもあるけれど、どれでも正解なわけではない。ちゃんとした正解は、やっぱりある(いくつも)。

デジタルですべての要素がきちんと配置されていると、それだけでバランスよく見えてしまうことがあって、僕たちの感覚はついそれに騙されてしまいそうになります。

でもね、それは勘違い。そのデザインが何を目指して始められたものなのか、何を意図してその色を選んだのか、何のためにその形があるのか、もう一度立ち返らなければそこに潜む問題は見えてこないのでしょう。

形に落とす前によく考える。ぱっと見にカッコいいふうのものを作ってしまう前に、自分がどうしたいのかもっともっと悩む。そんなことが必要なのかもしれません。

完全アナログの時代、一度塗ってしまった色はもう戻せませんでした。ガッシュを上塗りして修正しても汚くなるばかりで、結局は一からやり直すほかなかったり。だから、僕らは息を止めて──誇張とか比喩ではなく本当にぐっと息を止めて──、白い紙の上に絵の具を置いていったのです。

アナログ時代と現在のデザイン行為の違い。そんなことを考えていたら思い出したことでした。

考え抜いて、決めて、一気に迷いなく描き切る。

そんなふうにデザイン出来たらいいんですけれど、ね。

デザインという行為にとって、今は今で、いい時代です。もちろん時間あってのことですが、ミリ単位の迷いを完璧になるまで調整出来るのだし、絵の具も紙も無駄になりません(いや、でも実は電気代のほうが高いのかもしれませんよ)。文字のスペーシングを調整するときなんて、ミリでも粗過ぎる。コンマ何ミリがデザインの善し悪しを分けてしまいますし。

そう、冒頭で書いた技術というのは、実は手先の技術やデザインソフトを操る技術の話ではありません。

・美しいバランスとは何だろう?

・この色がこのくらいの面積で置かれるなら、あの色はどのくらいの面積にするべきか?

・この色がこのくらいの彩度なら、あの色はどのくらいの彩度であるべきか?

・この形がこのくらいの強さなら、主張なら、あの形はどのくらいの強さにするべきだろう?

・この密度で「主たる要素」が配置されるなら、どこにどのくらいの「空間」を、「抜き」を用意するべきだろう?

僕はデザインの先生ではないので、あまりはっきりとしたことは言えません。でも、こういう基本的な技術を身につけた上にこそ、自分ならではのセンスというものが輝くんじゃないのかな。

そう、思うのです。

ちょっととりとめのない感じになってしまいましたが……。こだわって、考え抜いて、迷い抜いて、いいデザインを創りたいものですね!

では、今晩はこのへんで。

また、明晩!

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